虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
まだ眠る街に教会が鐘を鳴らして夜明けを告げ、市民階級の人々は眠気の残る目をこすりながら布団から起き出す。
セレスティーンもまた、鐘の音とともに目を覚ました。
「ん……」
顔をしかめて彼女はぐーっと伸びをした。
またあの人の夢を見た。
大きく息を吐いて、埃っぽい枕に顔をうずめる。
ちらりとベッドサイドを見ると、彼女がいる粗末な屋根裏屋には不似合いな豪華なワゴンがあった。おいしそうなパンとソーセージの載った皿が置かれており、温かな湯気が立つスープとカフェオレもある。
夢の中の彼に「ごはんもろくに食べさせてもらえない」と話したあとから、なぜか朝食が現れるようになった。
不思議な符合に彼が魔術で用意してくれたのかと思った。夜は仕事から帰ってくると現れている。食事のワゴンは気がつくと消えていて、他の人がいるときには現れない。
だから彼のことは夢だと思うと同時に、現実かもしれないと半信半疑になっている。
彼の名前はなぜか覚えていない。夢の中ではその名を呼んでいるのに、どうしてだか目覚めると忘れていた。
彼女は神と彼へ感謝の祈りを捧げてから朝食をいただき、仕事着に着替えた。