虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「そんな婚約は存在しない」
「へっ」
 国王の返答に、ドルファスは間抜けな声を出した。

「いえ、ですが、正式に書類を……」
「そんな書類はない。つまり貴様に婚約者はいない」
 国王が断言する。それはつまり、最初からなかったことにするという国王の意志に相違ない。
「そんな……」

「アーロン殿下、今宵は貴殿と婚約者殿をお迎えできて光栄に存じます」
 国王がアーロンとセレスティーンに頭を下げ、後ろに控えた王子も頭を下げる。

 セレスティーンは信じられない気持ちで彼らとアーロンを交互に見る。
 まさか、国王と王子が自分に頭を下げているなんて。

「し、しかし、私はウィーニー家に婚約の引き換えに金を貸していて……」
 懲りないドルファスが食い下がる。

「一度認めた婚約を破棄なさるんですか? 国王の権威に傷がつくのでは?」
 ドルファスに続いてティアリスが言う。

「ウィーニー家の妹娘と婚約をしていたのでだろう?」
 食い下がるドルファスに、めんどくさそうに国王が言う。

「え!?」
 今度はティアリスが素っ頓狂な声を上げた。

「多少の記憶の違いは誰にでもあることです。探せばその書類も出てくるはずです」
 王子がうんうんと頷いて同意する。

「そんな!」
 ティアリスの声はもはや悲鳴だった。
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