虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「五年くらい前だった。扉が開いたので俺はこちらに遊びに来ていたんだが、供とはぐれてね。ようは迷子になったんだ。困って泣いていたら君が俺を見つけてくれた」
「私が?」

「君は俺を慰めて、お菓子をくれたんだ」
「ぜんぜん記憶にないわ」

「俺を迎えに来た母が君の記憶を消していった。アシュディウムの皇太子が迷子になったなんて国の恥だからね」
「そう……なの?」

「俺は帰る前、君に約束した。必ず君と結婚すると。君は「素敵ね」と微笑んでくれて、だから俺は君に婚約の印をつけた。それが君の世界でどういう影響を与えるのか、当時はわかっていなかった」
「なんだか実感がわかないわ」

「そうだね……記憶の封印を解くよ」
 言って、彼はセレスティーンの額に手を当てる。

 あたたかなものが額から流れ込んできて彼女の体中を巡り、ぼんやりと記憶に浮かび上がるものがあった。


***


 その日、十二歳のセレスティーンはティアリスのわがままで夜であるにも関わらず買い物に行かされた。
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