虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
「まあ、魔物みたいなこと言うのね」
「魔物じゃない。魔族だけど……」

「魔族?」
 セレスティーンは首をかしげた。噂に聞く魔族は角が生えているだの耳がとがっているだのと言われているが、彼はまったくそんなことはない。紫の髪と黄金の瞳は珍しいが。

「大丈夫よ、きっと帰れるわ」
「だといいんだけど……でも、帰ったらお姉さんと会えなくなっちゃう」

「それは寂しいけど、帰るほうが大事よ」
「お姉さんも寂しいの? だったら、将来俺と結婚して」

「素敵ね。光栄だわ」
「本当に、だよ! 大きくなったら迎えにいくから待ってて。きっとすぐだから」

「ありがとう、待ってるわ」
 子供の戯言だと思ったセレスティーンは微笑してそう答える。

「約束だからね。婚約の印をつけるよ」
 男の子はセレスティーンに抱き着くと、その首にチュッと触れるだけの口づけをした。

「まあ」
 セレスティーンは驚いた。キスまでされるとは思っていなかったからだ。

「若様」
 声がしてそちらを見ると、いつの間にか仮面で顔を隠した女性が立っていた。
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