虐げられた令嬢は貴公子の夢を見る ~気がついたら幸せな結婚が決まっていました~
 魔術を習いたいものは年に一度の扉が開くその日に、あちらに行かねばならず、帰ってこられるのは最低でも一年後になる。留学できるのは一部の優秀な者だけで、いくら才能があっても人格が未熟とされれば留学資格を得ることはできない。不正が発覚した際にはすべての魔術を封印されるという。

「ママ、殿下は金髪に青い瞳をしてらっしゃるのよね」
「そうよ。お見掛けしたことがあるけど、それはそれは素敵でいらしたわ」

「私も買い物にいくわ。リボンとかネックレスとか……新しい口紅も欲しい!」
「お前が殿下に見初められるかもしれないものね」
 ティアリスとエマニーズはセレスティーンのことなど忘れたように話に花を咲かせた。





 年の近いメイドのタリアーナと廊下の窓を拭き、セレスティーンは小さくため息をついた。
 結局、買い物には連れて行ってもらえなかった。
 エマニーズが選んで買って来るというが、不安しかない。

 急な舞踏会の招待。
 年に一度、実りの月の最終日にだけ開く扉をくぐり、帰国する王子殿下。
 それが夢の中の彼と重なり、まさかと思いながらも想像は膨らむ一方だ。

 髪の色も目の色も違うのに。
 だけど、彼が会いに来ると言った日と殿下の帰国日が同じだなんて、期待しないわけがない。

 エマニーズが選ぶドレスはきっと質素なものだろうけど、それでも国王陛下の招待なのだから、ドレスを買わずに参加させないという選択肢はないだろう。

 夜会に行けば、すぐに彼に会えるだろうか。
 会ったときに自分はなんと言って声をかけるだろう。彼はどんな言葉をくれるのだろう。
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