今一番ほしいもの
「今一番欲しいもの、ですか……」突然の打診にたじろぐ。肩に下げた銃剣の重さを急に意識した。

今しがた銃剣道の試合が終わったばかりだが、僕は特に入賞も、ましてや優勝なんてしていない。

表彰式が終わり、さあ帰ろうと立ち上がりかけたところで声をかけられた。

「いや、君の試合は良かったよ。他の選手はあくまで『道』として型を演じているのがわかったが、君は違う。

君、相手を殺す気でいただろう。」

確かに僕は型通りというものは不得手である。先輩にも師範にもよく指摘される。型をなぞってはいるが、所作の細かなところが甘いとか、無駄な動きがあるだとか。

それが殺す気だなんて。

「いえ、自分は型の所作がどうも上手く演じられないのです。試合で勝ち上がるには不十分で、それを補うには気迫しかないもので」と説明する。

「そういうことではないよ。例えば突きなんて型どおりにするとわかるだろ、絶対に相手を傷つけることはない。でも君の突き、あれ止められたからいいものの、そのままだと試合相手の手首が飛んでたろ。」

ギクリとした。この相手には誤魔化しきれないのか。

「だからさ、私の所属においでよ。今度新しい部署を作るんだよ。そこなら君の一番欲しいものが手に入るかと思ってさ。」

ああ、なんでもお見通しというわけか。それならば取り繕う必要もない。

「わかりました。そうまで仰るならば異存はありません。叶えて頂きますよ、僕の一番の望みを。」
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