喜劇・魔切の渡し

取引すっぺえ

人間の自由意志を飽くまでも尊重するってえ、か、神の……おー、嫌だ。この言葉。とにかく、そのナニの、ご意向ってやつをよ。欲ボケした教祖の婆も婆なら会員も会員だ。契約した以上奴らの魂はみんな俺様が好きな時に持って帰る。文句があるか?」
天使「ねえよ」
悪魔「だろ?じゃ、はい、これでさようなら」

陸に上がろうとする悪魔の袖を天使が引く。悪魔よろめく。

天使「待てよ」
悪魔「危ねえな。なにすんでえ!」
天使「だからよ、そげん旨かこつ云うことねえだ。おらには和子が欲得で信仰しているとは思えねえ。純な人間までどうこうするこたあ、おらあ許さねえぞ」
悪魔「会員は会員だ。契約は契約だ」
天使「うーん、だからよ……よし、んじゃわかった。ひとつ取引をすべえ」
悪魔「なに?取引だあ?」
天使「んだ。今晩おめえがお米婆さんの魂を断ってから21日間、おらあ一切おめえに手出しをしねえ。そん代わりぃ、法要の明ける最後の日に一回切り〝神の光〟さおらにかまさせろ、和子に。欲得でねえ和子の自由意志まで、野放図に悪魔の契約に入れるこたあ勝手に過ぎるつうもんだ。だから一回やらせろ、和子と。い、いや、和子に神の光をかまさせろ」
悪魔「一回やらせろとは何だ。こいつ、つい本音を出しやがったな。へっ、まあいいや。そのきゃ、きゃみの光でもなんでもかましたけりゃかましやがれ。そんなことより、その和子が遠くへ行っちまうじゃねえか。和子姉さんの形のいいお尻を見失なっちまう。じゃ、俺は行くぜ」
天使「なに?お尻?そ、そんなに形よかっぺか。これ、待て、悪魔。お、おらも一緒に……」
悪魔「ば、ばかやろ。危ねえ……」

袖を引いた天使ともども2人とも川の中に落ちる。
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