愛したがりの若頭と売られた私
「ねぇ!
お姉ちゃん、ヤクザに売られたんだよね!?
なんで、あんな……幸せそうなの…!?」

茉咲を差し出したおかげで、借金はなくなった。

しかし“借金返済のため、娘を売った家族”だと一日も経たない内に近所中に知れ渡り、肩身の狭い思いをしている茉咲の元・家族。
かと言って、この街を出ていくための引っ越す金もない。

父親は職場でも肩身の狭い思いをし、母親やカヲリもそれぞれ友人達からも軽蔑されていた。

「どうして…茉咲だけ、幸せそうなの……!?」

母親は、ジュエリーショップの中に入ろうとする。

すると……

「おい!」

「え……」

扉前に、池治達部下が立っていた。

「お前、茉咲さんの“元”家族だろ?
まさかとは思うが、茉咲さんに会おうとしてねぇよな?」

「あ…そ、それは……!!」

「若との約束、忘れた?
消えろ…!!
茉咲さんの前に現れるな。
もう、お前等と茉咲さんは“赤の他人”なんだから」

「あ、あの!
茉咲は、今どうしてるんですか?」

「そんなことを聞いてどうする?」

「………」

「我々の若頭と、今日ご結婚された。
わかるよな?
茉咲さんは、我々にとっても大切な姫のようなモノ。
ここで消えないなら……“力ずくで”消えてもらうが?」

「……っ…!!?」
「ま、ママ…!!」
思わず、後ずさる母親とカヲリ。

するとそこに、ショップの扉が開いた。

「江戸川様、ありがとうございました!
お気をつけて!」

丁寧に頭を下げる従業員と、茉咲の腰を抱いている夜凪が出てきた。

「ありがとうございました……! 
―――――え?あ…お、お母さん、カヲリ…」
従業員に軽く頭を下げ、前を見る。

母親とカヲリを見て、固まる茉咲。
母親とカヲリも、目を見開いている。

幸せそうな表情、耳に光るピアス、首にもネックレスがさりげなく茉咲の美しさを惹き立て、着ている服も明らかなブランド物。

とてもじゃないが“ヤクザに売られた人間ではない”

「茉咲、早く帰ろ?
買った荷物、整理しないと!
結構買ったから、整理大変だよ?(笑)」

そして夜凪は、母親達の存在など見えないかの様に茉咲の腰を引いた。
池治に「早く車回せ」と言い、外に出て行こうとする。

「あ…あの…夜凪さん!」

「ん?なぁに?」

「母達が……」

「え?
茉咲の家族は“僕だけ”でしょ?
茉咲に両親はいないでしょ?」

「………」

何故だろう。
茉咲を見つめる視線や雰囲気はとても甘くて温かいのに、口から出る言葉は……冷たくて、恐ろしささえ感じる。

茉咲は、寒気を感じていた。
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