愛したがりの若頭と売られた私
「………複雑な気分だな…」
そんな茉咲に、夜凪も困ったように笑う。

「え?」

「君がもし、普通の家庭に生まれてたら………
もっと、普通に感情が豊かで、幸せな毎日を送ってたはず。
でも、そうなると……きっと僕達は、出逢えてない」

「でも、今私は幸せです」

「え……ほんと?」

「はい。
確かに、小学校に入学する前までは幸せでした!
血の繋がりがなくても“普通に愛されてる”って実感できてた。
でも……それからが、地獄でした。
本当にあっという間に愛情も、信頼も、居場所もなくなった……
夜凪さんに買われるまで、とにかく“お金を貯めて、あの家を出ていく”ってことだけを目標に生きてました。
それを夜凪さんが、連れ出してくれた!
なので私は、今が幸せです!」

茉咲がふわりと笑う。
夜凪の心が、チクリと痛んだ。

そして、茉咲への愛しさが更に増した。

「………」
夜凪の顔が、ゆっくり近づく。
自然と茉咲も目を瞑った。

チュッ、チュッと啄んで、深くなった。

キスをしながら、ゆっくり押し倒される。

茉咲を組み敷いた夜凪が「じゃあ…今日はずっとくっついてようね……!」と微笑んだ。


愛し合って………今は、二人とも下着姿で夜凪の膝に跨がっている茉咲。
夜凪に抱きついて、頭を撫でてもらっている。

「寒くない?」

「あ…少し…」
ポツリと言うと、夜凪が着ていたシャツを羽織らせてくれた。

「どう?」

「はい、大丈夫です」

「ん」

「………」
「………」
静かで、穏やかな時間が流れる。

「…………夜凪さん」

「んー?」

「お願いがあるんですが…」

「なぁに?
何でも言って?
フフ…嬉しいな!茉咲が俺に“お願い”してくれるなんて!」

茉咲は夜凪に向き直り、夜凪の胸に彫っている刺青に触れた。
「私も……刺青、入れたいです。
夜凪さんと同じ刺青」

「…………やめておいたほうがいい」

「え?」

「こんな綺麗な身体に、傷をつけるなんて……」

「でも、私は夜凪さんに買わ……夜凪さんの妻ですよ」

「………」

「………」

「それが、君の“覚悟”ってことか……」 

そう呟いた夜凪。
そして、続けて言った。
「うーん…そうだね…
じゃあ…目立たない所に入れようか?
足首とか。
僕とお揃いのタトゥー」


そして………茉咲は夜凪とともに、左足首に“ジャスミンの花と蝶”のタトゥーを彫った。

夜凪も同じタトゥーを左足首に彫った。

二人のタトゥーが対になるように―――――――


「茉咲。君の覚悟、ちゃんと受け取ったからね……!」


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