愛したがりの若頭と売られた私
結局諦め、次の仕事に向かう夜凪。
車内で、煙草を吸いながらポツリと呟いた。

「こんなはずじゃなかったんだけどな……」

「え?」
池治が運転席から、バックミラー越しに返事をする。

「まだ二十歳そこそこの女一人に、こんなに心を奪われて、乱されて、囚われるなんて思いもしなかった」

「あぁ、それは僕も不思議です(笑)」

「茉咲の覚悟にも、驚かされてばかりだし」

「そうですね」

「あ、それで、元家族はどうなった?」

「父親は使い物にならないので、仰せの通り沈めました。
母親と娘は、使えそうなのでイルマに任せてます」

「イルマか…(笑)」

「はい。
奴には“若の宝を傷つけた”と伝えてます」

「おぉ…怖っ!(笑)」

「一度、若からも奴に会って伝えていただけると、より効果的かと」

「そうだな」

 

一方の茉咲――――――

「お疲れ様でした」
仕事を終え、着替えていた。

「茉咲ちゃん、お疲れ!」
「ん?あ、ミハナちゃんお疲れ様!」

茉咲のバイト仲間で、仲良くしているミハナ。
ミハナにだけは全てを話していて、茉咲の事情など理解してくれ、気遣ってくれる大切な友人だ。

「どう?新婚さん!」
「うん…幸せだよ」

「ん?そんな風には見えないよ?(笑)」

「やっぱり、夜凪さんの職業が……」

「そう…だよね……
いつも監視してる…えーと……」

「堺部さん?」

「そう!
堺部さんだけでも怖いもん(笑)」

「うん…
あ、だから迷惑がかかるようなら……」

「だから!
私は、茉咲ちゃんと仲良くしていきたいの!
茉咲ちゃんは、私の命の恩人だもん!」

ミハナは、去年まで同棲していた恋人からのDVに悩まされていた。

危うく殺されかけたところを、茉咲が助け出したのだ。  
その恋人は警察に連れて行かれ、その後家族によってミハナから引き離されることとなった。

「私じゃ、何の力にもならないかもだけど……
何でも言って?
出来ることは、何でもするから!」

「うん…!ありがとう!」


制服を着替え、店を出ようとする茉咲とミハナ。
するとミハナが思い出したように言った。

「あ!そうだ!忘れてた。
この前茉咲ちゃんの休みの日、二人組の女子大生が茉咲ちゃんのこと聞いてきたの!」

「え……」

「今日は、出勤してないんですか?って!」

「そ、それで…」

「次いつ出勤するかを聞かれて……
茉咲ちゃんに何の用があるのかを聞いたら、茉咲ちゃんの妹さんの居場所を聞きたいんだって」

「そっか…
でも、私もわからなくて……」

「うん。だろうと思ったから、茉咲ちゃんはある理由で追い出されたから、わからないと思うって言っておいたけど……」

「うん、ありがとう。
それで大丈夫だよ」

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