愛したがりの若頭と売られた私
「茉咲さん、お疲れ様です!」 

堺部が微笑み、丁寧に挨拶してくる。
話の流れで夜凪に、堺部が怖いとポロッと言ってしまったせいで、堺部は常に笑顔を意識してくれていた。

「あの、すみません……!」

「え?なんで、謝るんですか?」

「私が余計なこと言ったから、気を遣わせてますよね?
すみません!」
ペコペコ頭を下げる、茉咲。

「…………ほんっと…お人好しっつうか、不器用なんですね(笑)」

「え?」

「俺なんかにそんな気を遣わなくていいんですよ?
茉咲さんは、若の女なんですから。
もっと俺達を使っていいんですよ?
俺の方こそ、すみません!
でも、こんな顔なんで……
つか!若や池治さんがイケメンだから悪いんですよ!
茉咲さんもそう思いません?(笑)」

「………フッ…」
堺部の言葉に、思わず噴き出す茉咲。

「あ…(笑)笑ってくれた!」
堺部も嬉しそうに笑った。

そして、自宅マンションまで送ってもらう。

「今日は、変わったことなかったですか?」
車に乗ると必ず聞かれる事柄だ。

「あ…はい、特には」
ミハナから聞いたことを言おうかと思ったが、ミハナが伝えてくれたし大したことではない。
わざわざ言う必要がないだろう。

とにかく、相手は夜凪だ。

下手に言うと、大事になるかもしれない。
茉咲は、微笑み首を横に振った。

「何でも言ってくださいね!
俺は店内は見守れるけど、奥のことはわからないので」

「はい、ありがとうございます」

そしてマンション前に着き、降ろされた。
「お疲れ様でした!」

「はい、堺部さんこそいつもありがとうございます。
帰り、お気をつけて!」
軽く頭を下げ、マンションに入ろうとする茉咲。

その背中に声をかけてきた、堺部。

「“江戸川 夜凪という男を、甘く見ない方がいいですよ”」

「え……?」
思わず振り返る、茉咲。

「俺の仕事は“茉咲さんの安全を”守ることです。
俺は若に、少しでもおかしいと思ったら、少々強引でも奥まで入り込んで探れって言われてます。
茉咲さんには、仲の良い友人がいますよね?
その人から“強引に”聞き出すこともあるかもしれない」

「あ…」

「もう茉咲さんは“若に囚われている”
だから、あの方から逃げられない。
あなたの幸せを守るためなら、あの方は“何でもします”
…………だから、もう一度伝えておきます。
“どんな小さなことでも、何かあったら何でも言ってください”」 

堺部の言葉が、やけに茉咲の心に響いていた。
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