消えた三日月を探して
特段、人に好かれようとは思っていない。かといって嫌われてもいいのかと聞かれれば、それはそれで悲しい。ただ求めているのは『普通』であること。
けれど、それが一番難しい。
「これ、頼まれたもの」
何も知らないスタッフの一人が、飾りで施してある“ぐし”をしつけだと勘違いし外してしまったのだと、縫い直しを頼まれていたのだ。それを急いで仕上げ姉に届けた次第。
アリサに会いたくなくて一刻も早くこの場から逃げたい私は、久遠への挨拶もそこそこに早歩きで大部屋を出ていく。けれど「ここで何やってるのよ!」という怒号に。思わず振り返ってしまった。
「アリサ⋯⋯」
「何しに来たの? 聡司に会いに?」
「違うから。姉に用があったの」
「邪魔だって言ったでしょ? あんたがいると、聡司は私を見てくれないの! あんたがいるから、私は彼に振り向いてもらえなくなったの! 全部あなたのせいよ!!」
出会い頭に他人に、しかも頭ごなしに怒鳴りつけられるなんて早々あるもんじゃない。
何も悪いことをした覚えはないのに、自分が酷く悪者のように思えて罪悪感。
アリサの顔を見ることさえ出来なかった。
何も言い返せず、彼女の吐き出す胸のうちを全て受け止める。聞き流せばすむことなのに、私にはそれが出来なかった。
「もうそこら辺でやめとけよ」
辺りが騒然とする中、廊下の壁にもたれ腕組みをしこちらを窺っていたのは聡司。
「俺とお前の問題に、市松を巻き込むな」
「巻き込むなって⋯⋯」
「お前のせいで、色々無茶苦茶になったんだ。これ以上掻き回すなって言ってんだよ。言いたいことがあるなら、俺に言え。こいつじゃなくてさ。全部聞いてやるから」
場所を変えようとアリサの腕を引き外に向かう。
彼は一度もこちらを見ることはなく、私は私で、去り行く二人の背中を無言で見送っていた。
けれど、それが一番難しい。
「これ、頼まれたもの」
何も知らないスタッフの一人が、飾りで施してある“ぐし”をしつけだと勘違いし外してしまったのだと、縫い直しを頼まれていたのだ。それを急いで仕上げ姉に届けた次第。
アリサに会いたくなくて一刻も早くこの場から逃げたい私は、久遠への挨拶もそこそこに早歩きで大部屋を出ていく。けれど「ここで何やってるのよ!」という怒号に。思わず振り返ってしまった。
「アリサ⋯⋯」
「何しに来たの? 聡司に会いに?」
「違うから。姉に用があったの」
「邪魔だって言ったでしょ? あんたがいると、聡司は私を見てくれないの! あんたがいるから、私は彼に振り向いてもらえなくなったの! 全部あなたのせいよ!!」
出会い頭に他人に、しかも頭ごなしに怒鳴りつけられるなんて早々あるもんじゃない。
何も悪いことをした覚えはないのに、自分が酷く悪者のように思えて罪悪感。
アリサの顔を見ることさえ出来なかった。
何も言い返せず、彼女の吐き出す胸のうちを全て受け止める。聞き流せばすむことなのに、私にはそれが出来なかった。
「もうそこら辺でやめとけよ」
辺りが騒然とする中、廊下の壁にもたれ腕組みをしこちらを窺っていたのは聡司。
「俺とお前の問題に、市松を巻き込むな」
「巻き込むなって⋯⋯」
「お前のせいで、色々無茶苦茶になったんだ。これ以上掻き回すなって言ってんだよ。言いたいことがあるなら、俺に言え。こいつじゃなくてさ。全部聞いてやるから」
場所を変えようとアリサの腕を引き外に向かう。
彼は一度もこちらを見ることはなく、私は私で、去り行く二人の背中を無言で見送っていた。