消えた三日月を探して
◌ ͙❁˚陸『終わりよければすべて
最近ではすっかり和装コーディネーターと化した久遠は、美咲の最新作のパンフレット用に聡司共々、撮影にかかる全てを任され忙しそうにしていた。一人であれやこれやと準備に奔走する彼の手伝いを少しでもできればと、仕立てを一手に引き受けた私。ならばと着付け師の一人として指名されたのも、やはり久遠だった。
しかしながら、やはり取り繕えない性格というものは直らない。『馬鹿につける薬はない』とはよく言うが、気持ちの切り替えが誰よりも下手な自分に「今まで通り」なんて芸当は難しかった。
色々な出来事の清算が終わり人間関係も一段落したと思ってはいたが、まだまだ気まずさは否めない状況が続いている。事の他久遠とは顔を合わせづらく、やんわりと彼を避けていたことに勘のいい聡司が気づかない訳がなかった。
本日何度目かも分からないため息を吐くと、同じ空間で仕事をしている彼にジトっと睨まれる。
「あのさぁ、さっきからため息をばっかり⋯⋯もうやめない? お前の『彼氏』としての立場上、それ⋯⋯微妙なんだけど」
たまには自分からぶつかって行けよと言う聡司に、「うーん」と唸り言葉を濁してばかり。
「ホントに分かりやすい性格だよな。お前ら、今までが親しすぎたんだよ」
傍から見ている分には面白過ぎると茶化され、今や『恋人』となった彼をひと睨み。されど聡司は聡司で、あからさまに小バカにした態度でこちらを嘲笑っていた。
「サイテー 。聡司、最近余計に性格悪くなってない? これでも本気で悩んでるのよ!」
「だったらウジウジしてないで、いつも通り『友だち』と仕事の打ち合わせして来いよ。何もかも、とりあえずは清算できたんだろ? お前らも」
今更何を遠慮しているんだと、私を急かす。
「簡単に言わないで。出来ないから悩んでんじゃないの」
いかにも前向きな彼らしいアドバイスだが、私にはあともう一歩の勇気が出なかった。
「なら、意地悪ついでに言っとくけど、俺の援護期待してんるなら的外れ。それはお前ら二人の問題だから」
とか何とか言いつつ、面白がってるでしょ? と愚痴っぽくなる口調に、彼はフンッと鼻を鳴らしていた。
ことある事に私を揶揄する目の前の男に、いい加減にしろと背を向ける。「素直じゃないね」と言う彼は「うっさい!」と手元に視線を落とす私を背後から抱きしめ、「まぁ俺は好きだけどな、お前のそういうとこ」と耳元で低く囁いた。
「また、そういうこと言う」
今では言葉遊びの次いでとなっているその軽口。甘さを含んだ低音ボイスが艶っぽく響く中、それにも慣れてきた私は「はいはい」と適当に相槌を返す。斜め後ろを見上げれば至極真面目な表情でこちらを見つめている彼と視線が重なり、目が合ったら合ったで照れくさくなり咳払いひとつ。冗談も思い浮かばないのか口ごもる聡司の姿に、何だか勝ったような気分でほくそ笑んでいた。
しかしながら、やはり取り繕えない性格というものは直らない。『馬鹿につける薬はない』とはよく言うが、気持ちの切り替えが誰よりも下手な自分に「今まで通り」なんて芸当は難しかった。
色々な出来事の清算が終わり人間関係も一段落したと思ってはいたが、まだまだ気まずさは否めない状況が続いている。事の他久遠とは顔を合わせづらく、やんわりと彼を避けていたことに勘のいい聡司が気づかない訳がなかった。
本日何度目かも分からないため息を吐くと、同じ空間で仕事をしている彼にジトっと睨まれる。
「あのさぁ、さっきからため息をばっかり⋯⋯もうやめない? お前の『彼氏』としての立場上、それ⋯⋯微妙なんだけど」
たまには自分からぶつかって行けよと言う聡司に、「うーん」と唸り言葉を濁してばかり。
「ホントに分かりやすい性格だよな。お前ら、今までが親しすぎたんだよ」
傍から見ている分には面白過ぎると茶化され、今や『恋人』となった彼をひと睨み。されど聡司は聡司で、あからさまに小バカにした態度でこちらを嘲笑っていた。
「サイテー 。聡司、最近余計に性格悪くなってない? これでも本気で悩んでるのよ!」
「だったらウジウジしてないで、いつも通り『友だち』と仕事の打ち合わせして来いよ。何もかも、とりあえずは清算できたんだろ? お前らも」
今更何を遠慮しているんだと、私を急かす。
「簡単に言わないで。出来ないから悩んでんじゃないの」
いかにも前向きな彼らしいアドバイスだが、私にはあともう一歩の勇気が出なかった。
「なら、意地悪ついでに言っとくけど、俺の援護期待してんるなら的外れ。それはお前ら二人の問題だから」
とか何とか言いつつ、面白がってるでしょ? と愚痴っぽくなる口調に、彼はフンッと鼻を鳴らしていた。
ことある事に私を揶揄する目の前の男に、いい加減にしろと背を向ける。「素直じゃないね」と言う彼は「うっさい!」と手元に視線を落とす私を背後から抱きしめ、「まぁ俺は好きだけどな、お前のそういうとこ」と耳元で低く囁いた。
「また、そういうこと言う」
今では言葉遊びの次いでとなっているその軽口。甘さを含んだ低音ボイスが艶っぽく響く中、それにも慣れてきた私は「はいはい」と適当に相槌を返す。斜め後ろを見上げれば至極真面目な表情でこちらを見つめている彼と視線が重なり、目が合ったら合ったで照れくさくなり咳払いひとつ。冗談も思い浮かばないのか口ごもる聡司の姿に、何だか勝ったような気分でほくそ笑んでいた。