消えた三日月を探して
「ほら、すぐそういう顔する」

「どんな顔よ?」

「『私困ってます』って顔」

「いきなりそんなこと言われたら、誰だって戸惑うでしょ!」

「俺とは遊びなんだ。じゃあ本命は久遠?」

「あんただって、すぐそういうこと言ういうじゃん!」

 段々と燈り始めた店先の提灯や灯篭の灯り。幻想的な風景を美しいと眺めながら、湧き上がる感情は「しつこい!」とため息と失笑を生み出す。

「アイツだけが知ってる市松がいる、っていうのがヤなんだよ」

「幼馴染みなんだからしょうがないじゃない。だとしても、ほとんどが子供の頃の他愛のないことよ。不貞腐れるほどの思い出なんかありはしないわよ!」

「時間だけはどうにもならない。だからな余計に⋯⋯嫌なんだよ」

「意外と嫉妬深いのね」

「どうせ俺はガキだよ」

 見かけによらず子供っぽいんだと大いに笑ってやった。

「そうだ! 俺の新しいホームページ見た?」

 突然にそう聞かれ、何のことだと首を傾げる。「トップページはお前の写真使ったから」と場所を移動するその背を追いながら、そんなこと聞いてないと目を見開いた。

「どの写真使ったのよ?」

「俺の最高の一枚」

 それは花丸紋の黒ちりめん。それを自身で身に纏い写真にしてもらったあの一枚を指していた。

「あの着物が俺たちを引き合わせてくれたんだ」

 まるで結季里姐さんの魂が私たちを結びつけてくれたように────。

 だからだと。

 新しい一歩を踏み出した私たちの頭上を桜吹雪が舞う。風に吹かれ雲の如く流れていくその様はまるで、空にかかる花筏のようで。

 石畳に並んだ二つの影に、変化も時には悪くないと思えた。

 今なら言える。無駄な苦労はないのだと。

 一度は逃げてしまった「現実」だったけれど、それでも手を差し伸べ、時には叱ってくれる人たちがいたからこそ、今の自分はあるのだと。

 生きていればきっといいことがある。頑張っていれば、その全てではなくても何かひとつくらいは報われる。そう信じて頑張ってきた。時には迷い、これで良かったのだろうか? と疑心暗鬼になりながらも、それでも前に進むことが何より大切なのだと知ったのだ。

 最初は何でも怖くて不安なものだ。不器用に手探りで、少しずつ前に進むしかないのだから。

 誰もが思い悩み時には苦痛を感じながらも、与えられた試練に立ち向かわなければならない。

 試練は皆平等に科せられる

 しかし大切なのは結果ではなく、その過程だと思うのだ。

 それまでの苦悩や挫折した日々は、決して無駄ではない。その苦しい時が、人を良くも悪くも育てるのだと。

 結果は自ずとついてくる。

 人生はたった一度きりなのだ。

 だから、その今を精一杯輝かせて生きて行こうと思う────。
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