消えた三日月を探して
 中心地にあるだけでもその立地条件は最高で、特に観光客が集中するこのエリア付近は人通りが絶えない。隣接する『花扇』と同様ガイドブックなどにも載っていて、客足も他の呉服店に比べ多いと聞いていた。時にはそれが億劫に感じることもあったりで、嬉しい反面大変だと感じるのも正直なところ。しかも、そういう時に限って店主は度々不在となる。私自身あまり要領の良い人間ではないので、仕立てを行いながらお店の接客もこなしていると、一人テンパることも度々あったのだ。「それだけお前が頼られてるって証拠だろ?」

「そうかなぁ? (てい)良く使われているだけのような気がするけど」

「そこら辺も否定はしねぇがな。まぁ、美咲も自由人だから、やりたいことをやりたいようにやってるだけじゃねぇの? お前もそうマイナスに考えるな。物事深く考え込むとロクなことねぇ。老けるぞ」

「うるさい」とふてぶてしく返せば、彼は少し声のトーンを落とし私としっかり視線を合わすよう向き合う。「いいか?」と続ける言葉を静かに聞いていた。

「どんなに最悪な状況でも、必ずしもそれが悪いことだとは言えない場面もある。考え方を変えるのは難しいが、要は捉えようだ。もう少しものの見方を変えてみろや。そしたら、お前の考え方や感じ方も多少は変わるんじゃねぇのか?」

 他人のお説教は聞く気にはなれない。言われていることが的を得ている場合なんかは特に。それが説教臭く感じれば感じるほど受け入れ難く否定的になるのだが、直哉さんの話はすんなり聞き入れることができた。きっとしつこくウダウダとは話さないから。

「仕事なんだ。無いよりゃいいだろ?」

 少しも偉ぶることなく眉を上げニヤリと笑うそんな仕草が好きで、「そうですね」と素直にその話を受け止めた。

 気持ちの良い朝日は、本日も晴天なりと伝えている。

 直哉さんの真似をし見上げた空は、抜けるように澄み切った青をしていた。
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