消えた三日月を探して
「あんた女子か!?」
「日に焼けるのが嫌なんだ!」
「女子じゃん」
「俺は肌が弱いの! 日焼けすると痛いんだよ」
「はいはい」と適当に相槌を打ちつつ、目線は足元。
悪いのは暑い夏の太陽────。
ふと、背後から声がかかった。
「この間はキツイ言い方して、ごめん⋯⋯」────と。
「私の方こそ、余計なこと聞いてごめんね」
互いの距離が少し空いた。
彼が謝ることではないのに、そんな風に言われるとどこか身構えてしまう。特に辛辣な言葉を浴びせられたわけでもない。もちろん彼に非なんてないのに、向けられる謝罪に大きくなる罪悪感は私から言葉を奪う。先行く互いの足音と、やけにうるさく聞こえる蝉の鳴き声に気を紛らわせていた。
たった二週間の生命を精一杯生きているその声に、悩みが耐えることのない人の一生を比較する。運命は人さまざまではあるが、思い悩みそれでも前へと進むことの出来る人間はそれだけで贅沢だなと思った。
思いふけり、気まずいまま無言で歩く足音に重なる男の人の声。
「今、近くまで来てると思うんですけど⋯⋯」
そう聞こえた拍子に辺りを見渡せば、路地の日陰で涼みながら誰かと電話連絡をとるその人を見つけた。
瞬間、後ろにいた久遠が「よっ!」と軽く手を上げ、見つけた姿に挨拶している。驚いたことに、そこにいたのはいつぞやから何度も『縁』のある彼だったのだ。
「確か⋯⋯誰だったっけ?」
姿と人柄が深く印象に残っていながら、どう考えても浮かんで来ないその名前。小声で助け舟を求める久遠に苦笑いのまま「狭山聡司」と耳打ちされ、そうだったとようやく思い出すことができた。
低く心地よい声に少し乱暴な口調。けれどただ乱暴なだけでなく、どこか知的さを感じさせる彼の言葉には、再々イラつきながらも最終的には受け入れてしまう自分がいる。その端正な顔立ちも相まって、いつの間にか「イイオトコかも」と思う気持ちが頭を擡げ始めていることに、一人困惑していた。
外見からも内面からも滲み出る色香に、いつの間にやら心を鷲掴みにされてしまっていたのだ。美丈夫なら久遠で見慣れているはずなのに、再会する度に増す動揺にそっと深呼吸を繰り返していた。
こちらが見つめているのだから目が合うのは当然で、「お久しぶりです、九条市松さん」とフルネームで呼ばれ上がる心拍数。半分当てつけのようなその言い方にお馴染みの如くイラッとはきたが、すっかりド忘れしてしまっていたこちらと違い覚えていてくれた彼に、もう目も当てられないほど恥ずかしく申し訳なかった。
「日に焼けるのが嫌なんだ!」
「女子じゃん」
「俺は肌が弱いの! 日焼けすると痛いんだよ」
「はいはい」と適当に相槌を打ちつつ、目線は足元。
悪いのは暑い夏の太陽────。
ふと、背後から声がかかった。
「この間はキツイ言い方して、ごめん⋯⋯」────と。
「私の方こそ、余計なこと聞いてごめんね」
互いの距離が少し空いた。
彼が謝ることではないのに、そんな風に言われるとどこか身構えてしまう。特に辛辣な言葉を浴びせられたわけでもない。もちろん彼に非なんてないのに、向けられる謝罪に大きくなる罪悪感は私から言葉を奪う。先行く互いの足音と、やけにうるさく聞こえる蝉の鳴き声に気を紛らわせていた。
たった二週間の生命を精一杯生きているその声に、悩みが耐えることのない人の一生を比較する。運命は人さまざまではあるが、思い悩みそれでも前へと進むことの出来る人間はそれだけで贅沢だなと思った。
思いふけり、気まずいまま無言で歩く足音に重なる男の人の声。
「今、近くまで来てると思うんですけど⋯⋯」
そう聞こえた拍子に辺りを見渡せば、路地の日陰で涼みながら誰かと電話連絡をとるその人を見つけた。
瞬間、後ろにいた久遠が「よっ!」と軽く手を上げ、見つけた姿に挨拶している。驚いたことに、そこにいたのはいつぞやから何度も『縁』のある彼だったのだ。
「確か⋯⋯誰だったっけ?」
姿と人柄が深く印象に残っていながら、どう考えても浮かんで来ないその名前。小声で助け舟を求める久遠に苦笑いのまま「狭山聡司」と耳打ちされ、そうだったとようやく思い出すことができた。
低く心地よい声に少し乱暴な口調。けれどただ乱暴なだけでなく、どこか知的さを感じさせる彼の言葉には、再々イラつきながらも最終的には受け入れてしまう自分がいる。その端正な顔立ちも相まって、いつの間にか「イイオトコかも」と思う気持ちが頭を擡げ始めていることに、一人困惑していた。
外見からも内面からも滲み出る色香に、いつの間にやら心を鷲掴みにされてしまっていたのだ。美丈夫なら久遠で見慣れているはずなのに、再会する度に増す動揺にそっと深呼吸を繰り返していた。
こちらが見つめているのだから目が合うのは当然で、「お久しぶりです、九条市松さん」とフルネームで呼ばれ上がる心拍数。半分当てつけのようなその言い方にお馴染みの如くイラッとはきたが、すっかりド忘れしてしまっていたこちらと違い覚えていてくれた彼に、もう目も当てられないほど恥ずかしく申し訳なかった。