消えた三日月を探して

「だから! 眩しいんですって!」

 目がチカチカすると文句を言う私に、いい加減慣れろよと、アシスタントの人にカメラを渡している。

「君が髪飾りしてるの、初めて見る」

「久遠にもらったんです」

 いつだったかプレゼントだと貰ったのはいいけれど、つける機会もないまま。今朝のこと、何気なく目に付いた揺れる藤下がりに、何となく挿してみようと思ったのだ。

「久遠からの贈り物か⋯⋯」

 そう呟きながら、薄紫色の藤下がりを指で弾く。揺れる度にチリンチリンと鳴るそれを、面白そうに手で弄ぶ様に「うるさい」と顔を避けた。

「お前ら遊んでる場合か?」

 いつの間にやら戻ってきていた髪飾りの送り主。次はスタジオだろ? と、隅に固めてあった荷物を抱える。そんな彼に「お前、いっつもこんなもん付けてんの?」と尚も私の藤下がりを突っ突く狭山さんに、「いいかげん止めろよ」と意外にも低い声が綺麗に響いた。

「オモチャじゃねぇから、それ」

「それ? あぁ、髪飾りのこと? それとも────」

「行くぞ、市松。お前も手伝えよ」

 どことなく面白がっている風の狭山さんに、話を遮るよう歩き出す久遠。先行く彼の後を急いで追いかけるべく数歩進んだところで、ふと思い出した用事。振り返り狭山さんを呼び止めると同時に、久遠の歩みもそこで止まった。

「忙しくて連絡忘れてました。ごめんなさい。花丸紋の長着、この前やっと仕上がりました。出来上がったの見せたら姉が気に入っちゃって。私の私物になってるんだけど、道中にアリサさんに着ていただくことになったんで、今日スタジオに持って来てます。なので是非ご覧になってみて下さい」

 四間川から流れてくる優しい風が、互いの間を通り抜けて行く。一礼をし踵を返す私は、河原の小石に足を取られぬよう、少し大きめのダンボールを抱え久遠の元に駆け寄った。

 背後ではアリサの「聡司!」と呼ぶ、可愛らしい声が響いている。何となく背後に視線を感じながらも、狭山さんがそれに応える声は聞こえてはこなかった。
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