消えた三日月を探して
 撮影の移動用にレンタルされた黒のワンボックスカーに荷物を詰め込む。とにかく着物さえ無事なら後は構わないと、次から次へと運び込んでいった。

「お前さぁ、狭山とはいつもあんな感じなの?」

「あんなって?」

 突然、何の前置きもなくそう聞かれ、返す言葉に悩む。大体はそうだと肯定すると、あからさまに不機嫌な態度で「そう」とだけ返された。

 全ての荷物を運び込み、スタジオに戻る別の車に乗り込もうとした時、久遠が軽く悲鳴を上げる。「どうしたの?」とこちらまで驚けば、「ない!」とあちこち探し回っていた。

「何失くしたの?」

「財布」

 簡潔な会話に「えー!」と声を上げるしかなく、私も当たりを探し回ってみたが、そこら辺には何も落ちてはいない。

「免許証とかキャッシュカードとか入ってるんじゃないの?」

「入ってるよ!」

「警察に電話した方が良いんじゃない?」

 乗り込んだ車の中でそう心配していると、後ろの方で「誰か財布落としてませんかぁ?」と叫んでいる声がタイミングよく聞こえたのだ。

 言うまでもなく、二人して大きなため息。駆け寄ってきたスタッフさんから手渡されたそれに安堵したのも束の間、中を改める久遠の表情が一瞬曇った。

「どうしたの? お金、取られてた?」

 気にすれば、そうじゃないとそれを懐に仕舞う。

「何でもないよ。カードも現金も無事」

「大丈夫」と笑顔で言われはしたが、どことなく引っかかるものがあったのだ。

 何かを隠しているような、そんな感じ。

 私の知らない幼馴染みが、垣間見えたそこにいた。
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