消えた三日月を探して
「間違うのも無理は無いけど、この子は女性じゃないのよ」
「いや⋯⋯だって、どっからどうみても⋯⋯」
「おい、幼馴染みの顔忘れたのかよ」
「幼馴染み⋯⋯⋯⋯────」
呟いてその大きなぱっちり二重と視線が合った瞬間、「あっ⋯⋯」と口を開けたまま固まっていた。
深く考えずとも浮かび上がってくる思い出は、高校の卒業式以来か? そこには自身の記憶の中にある端正な顔した青年の面影が、目の前の綺麗な顔と完全に重なっていた。
「うっそ⋯⋯⋯⋯まさか⋯⋯久遠って⋯⋯庚久遠!?」
「よっ」と言う軽すぎる挨拶には絶句。
それはとてもじゃないが、五年前には想像もできなかった信じられない光景だった。
物心ついた時からいつも一緒に遊んでいた近所の悪ガキ。高校時代には女友達よりも親しかった幼馴染みが、今────「女の格好してる」と心の声がダダ漏れ。
やはり体つきは女にしてはガッシリしているし、「久しぶり」というその声も図太い男の人のもの。しかしながら可愛らしく化粧をした外見は、本当にどっからどうみても女の子だった。
「聞きたいことは山ほどあるんだけど……まず、その格好⋯⋯⋯⋯趣味?」
「五年ぶりの再会で、一番に聞くことがそれ?」
「他に何があんのよ? ってかまぁ、似合ってるっていうのもまた⋯⋯」
「お前の方こそ、相変わらず成長してねぇな」
まるで子供扱いするよう私の頭を撫でるその手首をおもいっきり掴み、「やめて」と制止する。
「いつ花洛に帰ってきたんだよ?」
突然の再会ともなれば、そんな会話になるのは当たり前。それに対し「二週間くらい前」と簡潔に答える私に、彼は近所なんだから声くらいかけてくれてもよかったじゃないのかと、手の平の傷の手当てを始める。傷口に染み入る消毒液に顔を歪ませる私の側で、女将さんが「後はお二人でごゆっくり」と、暖簾の奥に姿を消した。
「そんなこと言ったって⋯⋯」
「気ィ⋯⋯使ってくれてたんだろ?」
何が? と問わなかったのは、彼の言わんとすることが分かっていたから。
五年前の当時、久遠の家の家庭内事情は少しばかり複雑だった。故に気軽に連絡を取れる状況ではなくその後音信不通に。
「親の離婚なんて、差程珍しくもないけどさ。高校卒業目前ってのがタチ悪いよな⋯⋯うちの親も」
そう当時を振り返る彼は「心配かけたな」と小さく笑う。それでも顔くらいは見せて欲しかったと少し不貞腐れた風を装う幼馴染みの、変わらないその人懐っこさが嬉しかったのは事実。たまに母から入る噂程度の情報では、元気にやっていると聞いていたから安心してはいたのだ。
どこかしらあどけなさが残るその笑顔に、一瞬にして時が戻ったような気さえする。
やはり地元は良いもんだと思った。
「いや⋯⋯だって、どっからどうみても⋯⋯」
「おい、幼馴染みの顔忘れたのかよ」
「幼馴染み⋯⋯⋯⋯────」
呟いてその大きなぱっちり二重と視線が合った瞬間、「あっ⋯⋯」と口を開けたまま固まっていた。
深く考えずとも浮かび上がってくる思い出は、高校の卒業式以来か? そこには自身の記憶の中にある端正な顔した青年の面影が、目の前の綺麗な顔と完全に重なっていた。
「うっそ⋯⋯⋯⋯まさか⋯⋯久遠って⋯⋯庚久遠!?」
「よっ」と言う軽すぎる挨拶には絶句。
それはとてもじゃないが、五年前には想像もできなかった信じられない光景だった。
物心ついた時からいつも一緒に遊んでいた近所の悪ガキ。高校時代には女友達よりも親しかった幼馴染みが、今────「女の格好してる」と心の声がダダ漏れ。
やはり体つきは女にしてはガッシリしているし、「久しぶり」というその声も図太い男の人のもの。しかしながら可愛らしく化粧をした外見は、本当にどっからどうみても女の子だった。
「聞きたいことは山ほどあるんだけど……まず、その格好⋯⋯⋯⋯趣味?」
「五年ぶりの再会で、一番に聞くことがそれ?」
「他に何があんのよ? ってかまぁ、似合ってるっていうのもまた⋯⋯」
「お前の方こそ、相変わらず成長してねぇな」
まるで子供扱いするよう私の頭を撫でるその手首をおもいっきり掴み、「やめて」と制止する。
「いつ花洛に帰ってきたんだよ?」
突然の再会ともなれば、そんな会話になるのは当たり前。それに対し「二週間くらい前」と簡潔に答える私に、彼は近所なんだから声くらいかけてくれてもよかったじゃないのかと、手の平の傷の手当てを始める。傷口に染み入る消毒液に顔を歪ませる私の側で、女将さんが「後はお二人でごゆっくり」と、暖簾の奥に姿を消した。
「そんなこと言ったって⋯⋯」
「気ィ⋯⋯使ってくれてたんだろ?」
何が? と問わなかったのは、彼の言わんとすることが分かっていたから。
五年前の当時、久遠の家の家庭内事情は少しばかり複雑だった。故に気軽に連絡を取れる状況ではなくその後音信不通に。
「親の離婚なんて、差程珍しくもないけどさ。高校卒業目前ってのがタチ悪いよな⋯⋯うちの親も」
そう当時を振り返る彼は「心配かけたな」と小さく笑う。それでも顔くらいは見せて欲しかったと少し不貞腐れた風を装う幼馴染みの、変わらないその人懐っこさが嬉しかったのは事実。たまに母から入る噂程度の情報では、元気にやっていると聞いていたから安心してはいたのだ。
どこかしらあどけなさが残るその笑顔に、一瞬にして時が戻ったような気さえする。
やはり地元は良いもんだと思った。