たった一言の純情
彼は誰に対しても優しい。
今だって子供に声を掛けられて笑顔を振り撒いている。
無邪気に笑ってて、ちょっと可愛い。
1人で過ごす時は真面目な顔、人に話し掛けられると笑顔、そこがまたいいな、と思う。
私が声を掛けた時も彼から返ってくるのはいつも笑顔だ。
それに私の決まった一言に彼は毎朝違う一言を返してくれる。
それが堪らなく嬉しい。
今日の一言は何だろうな……。
心の中でひっそりと考える。
バスに揺られて5分。
そうこう考えているうちに、あっという間に目的地に着いてしまった。
前方のドアが開き、乗客が次々に降りていく。
みっちゃんも先に降りてしまい、私も後を追うように運賃を持って立ち上がる。
定期だと話す時間すらなくなりそうだから、わざわざお金で。
降りる前に彼と一言を交わす為に。
心臓がやばい。
ドキドキしながら好きな人に近寄る。
たった一言だけなのに緊張。
それでも負けずに運賃を払って口を開いた。
「ありがとうございます」
恋をしている運転手さんへ、乗せて貰ったことへの感謝の言葉。
毎朝、欠かさず。
言わない人も多いから私は言うって決めた。
印象だけでもよく思って貰いたい。
声を掛けれるチャンスはそこだけだから。
たった一言の純情。