砂時計は止まらない


 「悠真……っ」


 快楽と感情でいっぱいになって名前を呼ぶ。そうすると悠真はいつも私に確認を取る。合意の上での行為だと自覚させるように。


 「俺が欲しいの?」


 いつも楽しそうにそう聞くんだ。声とは反対に悲しげに眉を寄せて。


 悠真の真意は分からない。楽しいのか。悲しいのか。嬉しいのか。辛いのか。全くわからないし、悠真も何も言わない。だから、この状況で私が出来ることなんて1つしかない。


 「欲しいっ」


 悠真が欲しいとせがむだけ。愛して欲しいと望むだけ。欲しいと言えば、悠真はいつだって「そっか。じゃあ、あげる」と優しい顔で私を抱き締める。


 唯一、その瞬間だけは絆が繋がっていることを実感出来る。願わくは愛情が欲しい。だけど、それは無理だ。

 
 別れを選んだのは私。悠真を傷つけたのは私。ペットになることを最初に望んだのは私。進んだ時間は戻せない。戻りたいとどれだけ願っても。


 別れた理由だって自分勝手なものだった。

 “好きか分からなくなった”

 それが悠真に告げた最後の言葉だった。


 今思えばただマンネリなだけだった。新鮮さがなくなったのを不安に思ってただけだった。大切さに気付かなかった。こんなに好きなのに自分の感情に気付けなかった。

 結局は自分で自分の首を絞めただけ。後悔したって1度言ってしまった言葉は消せない。過去に戻りたくても、過去に戻ることは出来ない。1度壊れたら、もう元には戻らないんだ。

 何でもそう。それが玩具だろうと。愛情であろうと。元には戻らない。

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