砂時計は止まらない
所詮、私は……。
「お疲れ様」
「あっ!はい。お疲れ様でした」
会社から外に出て冷たい夜風にあたる。今日は久々の残業だった。秋にもなると空はもう真っ暗だ。真っ暗と言っても街灯やお店の光があるから道は明るいけど。
それよりワンピースにカーディガンなんて薄着で来てしまったから寒い。ひんやりとした空気に身震いしてしまう。
ボケッとして何も考えずに出勤しちゃったからだ。本当にバカだな、私。風邪とかひかなきゃいいけど。
あの日から1ヶ月。生きる屍とは私のことだ!って言いたくなるくらい落ち込んだ。
仕事だけは真面目に出てたけど、ご飯なんて碌に食べられず。失恋ダイエットじゃん、なんて自分に言い聞かせて何とか日々を乗り越えてきた。
ついに私と悠真の関係は完全に切れてしまった。元彼女に元彼氏。それにプラスされて元ペットに元ご主人様だ。全然笑えない。
もし、タイムマシーンがあるなら1年前に戻りたい。幸せだったあの頃へ。このまま辛い日々を過ごして、1年後の私は笑ってるのかな?全く想像すら出来ない。
「……愛梨」
会社から少し離れたところで、ふいに名前を呼ばれた。聞きたくてしょうがなかった。今、最も会いたくなかった人の声。
「悠真……」
振り返って見てみれば、やっぱり悠真だった。漆黒の髪と瞳と同じ色をしたストライプのスーツに身を包んだ悠真。
嫌になるくらいカッコ良くて胸がドキっとする。紺色のネクタイなんか付けちゃって、悔しいくらいカッコイイ。