砂時計は止まらない

サラサラと流れて



 薄く照明が灯された悠真の部屋の中。一緒に過ごす最後の夜だと思うと、悲しさで押し潰されそうになる。


 「最低だね、愛梨は」


 冷たく言い放たれた言葉に静かに頷く。優しくされるくらいなら、冷たく突き放された方がいい。そう思うのに心は辛くて悲鳴を上げる。


 でも、そんな私よりも悠真の方が辛そう。悲しそうに顔を歪めてる。


 「……やっぱりいい。こんなのヤメよう」


 残っていた理性でスパッと断ち切った。同情で抱かれてもやっぱり嬉しくない。最後の私の強がりだ。


 「いいの?」

 「うん。でも、今日で最後だから。昔みたいに一緒に寝たい」


 せめて抱き締められて眠りたい。こんな感情なんか知らなかった子どもの頃のように。最後の我儘。


 「……嫌だ」


 感情が昂ぶったように悠真がポツリと言葉を落とす。否定するような言葉を言われて、ドキッと心臓が音を立てる。


 「ペットにすれば裏切らないし、心変わりしないし、一生俺を一途に愛してくれる。そう思ってたのに」


 自嘲気味に笑って顔を伏せる悠真。言っていることの意味が分かるようで分からなくて息を飲む。


 「……何それ?」

 「結局、離れていくならペットなんて言葉で縛らなかったよ」


 薄暗い部屋の中、悠真に言われた言葉が頭の中をグルグルと巡る。


 それがどういう意味かなんて説明されなくてもわかる。悠真も私と同じ気持ちだった。


 「じゃあ、どうして他の女の人と結婚するの?」


 どうして私を捨てたの?どうして突き放したの?心に疑問が募る。すると、悠真は観念したように心情を吐露した。


 「試した。愛梨が俺のことをどう思ってるのか知りたくて」

 「試した?」

 「本当は結婚なんて嘘だし」

 「嘘だったんだ……」


 あの言葉も今までの行為も全て悠真の強がりだった。お互いの気持ちがすれ違ってただけ。



 「愛梨はすんなり俺を要らないって切り捨てるけど、俺は無理。あと、気づいた。本当に運命なら結ばれるって」


 別れてから悠真もずっと悩んでたんだ。あの温かい日々を取り戻したくて。


 「でも、運命なんて自分で捕まえなきゃ捕まらない。すんなりと逃げてく。だから自分で捕まえることにした」


 先に一歩踏み出したのは悠真だった。過去には戻れないし、未来なんてどうなるかわからない。でも。


 「だから愛梨。俺に捕まってくれる?」


 素敵な未来に向けて2人で一歩踏み出す。


 Fin

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