テクニカルラブフォール
 私を含め親族の多くが教育に携わる中、理事長は青年実業家として辣腕を振るってきた。それが今春、学園運営へ乗り出す運びとなり私達だけじゃなく世間をも驚かす。

(確か、結婚するんだっけ)

 母いわく、授かり婚による転身らしい。結婚の予定も彼氏を作る気力もない私からすれば理事長の身の振り方は潔すぎて。

(早く終わらないかな)

 窓の外を眺め、ため息を噛み殺した。

 壬生先生からギュウッと拳を握り締める音が聞こえたが、知らない振りをする。




「寧音ちゃん、寧音ちゃん!」

 全体朝礼が終わり、廊下を歩いていると肩をちゃん付けで叩かれた。

「理事長! 学校ではその呼び方は止めて下さい」

「君は相変わらず真面目だね、誰も聞いていないのに」

「そういう問題じゃありません。ここでは理事長と養護教諭です」

 確かに教師等はHRや一限目の支度がある為、私達がやりとりしようと気に掛ける暇などない。しかし、お互いの立場を明確にしておく。
 親しげにしないで欲しい、目元へ力をいれる。

「それでは月見里先生とお呼びしましょう。学園には慣れましたか?」

 やれやれと肩を竦め、口調を改める理事長。

「えぇ、お陰様でそれなりに」

「正確には馴染まないようにしている? 以前の君なら先程のやりとりを黙っていなかったはずだよ」

 図星をつかれ、つい立ち止まる。

「……非常勤医が口を出す問題じゃありません」
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