仙女の花嫁修行
 おでこを床に擦り付けお願いする私に、颯懍は素っ気なく答えた。

「無理だ」

「なっ……! 何故ですか?!私、そんなに頑丈そうに見えないかもしれませんけど、実はすっごく力持ちだし体力もあります! かならず颯懍様のお役に立ってみせますから」

「そうじゃない。仙人になるにはまず、仙骨が必要だ。仙骨がなければどんなに修行しようと仙にはなれん。お主にはそもそも、その仙骨が……」

 言いかけたまま颯懍は顎に手をやり、じーーいっと私の体を見て黙ってしまった。


「ある……。お主、仙骨持ちか」


 仙骨がどんな骨なのか知らないけど、これは棚ぼた!

「ほ、ほ、ほ、ほんとですか?! それなら余計にお願いします! どうか颯懍様の弟子に……」

「いや、それは無理だ」

「そんな殺生な事言わずに」

 颯懍の着物の裾に泣いて縋り付き、絶対に逃さないと言う念を込めて見つめた。迷惑だろうが何だろうが、逃してなるものかこの好機(チャンス)

「まあ落ち着け。俺は女の弟子は取らない主義なんだ。だから俺の弟子は無理だが、他のやつを紹介してやる」

「いいえ、颯懍様でなくては! 」

「何でだ」

「これから一生ついて行く人です。お仕えするのなら信頼出来る御方じゃないと」

 なんでもクソもない。心から尊敬できる人でなければ、信用も信頼も出来ない。命を救ってくれた颯懍なら「師匠」と呼ぶのに相応しい。

 私が懇願するすぐ後ろで、父と母、祖父・祖母から兄弟までもが颯懍に、お願いしますと頭を下げはじめた。

「颯懍様、どうか娘を弟子に迎えてやってはくれませんか。父親の俺が言うのもなんですが、何処へやっても恥じないように躾たつもりです」

「私からもお願いします。どこの誰だか知らない人よりも、颯懍様なら安心して娘を預けられます」
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