仙女の花嫁修行
 気を抜いた瞬間に、縒り合わせていた2つの気がバラバラに解けてしまったらしい。水の上に乗っかっていた体は沈んで、川の流れに足をすくわれてしまった。
 いくら海辺育ちとは言え、急な流れの中を泳ぐのは容易いことでは無い。もっと神通力を上手く使えられるようになれば、こんな水の中でもへっちゃららしいのだけれど、私はその域には到底達していない。

「ど阿呆! 集中せぬからこうなるんだ」

 いつもの怒鳴り声と共に、腕を掴まれ引っ張り上げられた。ゲホゲホと水を吐いて、新鮮な空気を肺いっぱいに取り込む。

「ず、ずみばぜん」


 水を大いに含んだ服を脱いで絞り、木と木の間に渡した紐に掛けて乾かしている間に、颯懍が焚き火を用意してくれた。

 火にあたって暖をとりながら、昼食の野草粥作り。

 仙人というのは基本的に菜食主義だ。
 道士になりたての頃は肉や魚が恋しかったけれど、修行を積むうちに欲求がなくなり、今ではむしろ食べたく無くなった。
 山で採ってきた食べられる野草と米とを煮込んで作る野草粥は、今や明明の定番料理となっている。今回は枸杞(くこ)の実も入れたので、紅、緑、白と彩りも良い。
 鼻歌交じりにお粥を椀へよそっている所に、颯懍が鼻をクンクンさせながらやって来た。

「仙術はまだまだイマイチだが、料理の腕はあるよなぁ」

 以前、颯懍お手製の野草粥を頂いた事があったけれど、これがまた不味かった。
 作り方を見ているとあく抜きをしていなかったので、野草を軽く湯掻いてから改めて作り直してあげると、「同じ材料のはずなのに何でだ!」と不思議そうにしていたのたのを思い出す。
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