仙女の花嫁修行
 当然、師匠の身の回りの事は弟子がやる事なのだけれど、食事に関しては取り分け、私の役目となった。

 3杯目の粥もペロリと平らげてしまったその身体は、食べた分が何処に消えてしまったのかと不思議な程に、無駄な贅肉が付いていない。
 まだ他の仙人を見た事がないから分からないけど、大体みんなこんな感じなのかな?
 

「ああ、そうだ。明日には仙界に行くぞ」

 食後のお茶をすする颯懍が、軽い口調で言った。

「ほっ、ほんとですか。うわぁ、緊張する……」

「着いたらとりあえず三清の一人、太上老君の所へ行くつもりだ」

 三清と言うのは仙人界のトップ、元始天尊・太上道君・太上老君の御三方のことを指す。
 3人のうちの誰かに認められると仙籍に入れられて、道士から晴れて『仙人』と名乗ることが出来るらしい。

「太上老君が師匠の師匠なのですよね」

「そうだ。だからまず最初に挨拶しに行かなければならんのだが……はあぁぁぁぁぁ」

 こちらの精気まで抜き取られてしまいそうな程に、ながーいため息をついた。師匠に会うのがそんなに嫌なのだろうか。もしかして、太上老君ってめちゃくちゃ怖くて厳しい御方とか?

 これは心してかからねば!





 翌日になってやって来たのは、昨日打たれていた滝とはまた別の滝。
 昨日の昼から移動し始めて、今はもう日が傾いてきているので足がパンパンだ。

「この瀑布の裏が、仙界に続く門となっている」

「ごく普通の滝の裏のようですけれど」

 想像していたのと全然違うぞ、と滝の裏側の窪みに颯懍に続いて入って行く。

 薄暗いし、水しぶきと苔で地面がヌルヌルして歩いにくい。おっとっとっ、と足を滑らせて、そのまま颯懍を突き飛ばしてしまった。

「いったぁ……って、えっ! うそ、何ここ!?」
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