仙女の花嫁修行
 廊下の少し先を行くと、颯懍はきちんと待っていてくれた。

「一体全体、どうなさったんですか?」

「いいから気にするな。とにかく今は挨拶が先!」

「……はい」

 とりあえず頷き返して、辿り着いた扉の外で待機している男性に、老君への取り次ぎをお願いした。
 すぐに返答があり部屋へ入るように言われると、中にはThe・仙人な、長い髭のお爺さんが待っていた。フサフサとした眉毛の下から除く瞳は、目尻に深いシワが刻まれている。
 いかにもなオーラに圧倒されて、思わず息が詰まりそうになった。

「太上老君様、お久しゅうございます。颯懍(ソンリェン)、ただいま桃源郷に戻りましたのでご挨拶申し上げます」

 膝をついて拱手をしたので、同じく一歩後ろで最上級の礼をした。

 うわぁぁぁ、心臓バクバク。

 極度の緊張でクラクラする中、太上老君が口を開いた。


 いや、抱きついた。

「はぃやぁぁ、颯懍よ、やっと帰ってきたか。50年も帰ってこぬから、儂は心配で心配で」

 ほっぺたをすりすりと擦りつけられた颯懍は、ハハハと顔を歪ませている。
 ギャップが凄すぎるよ、このお爺ちゃん。じゃなくて、太上老君様。不機嫌な子猫でもあやす様に、颯懍を撫でくりまわしている。

「そちに嫁を取らせようとしたのがそんなに気に食わなかったのか? よりすぐりの女仙を選んだんじゃがのう」

「だからと言って、夜這いはどうかと思いますが」

「それはそちが奥手すぎるゆえ、仕方なく強行手段に出た迄よ。可愛い弟子が僊人(せんじん)のままでいるのが、どれほど歯痒いか分かるじゃろ? そちが嫁をとって毎夜仲睦まじくすれば、すぐに真人(しんじん)に格上げできると言うに」
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