仙女の花嫁修行
4.目下、試行錯誤中
「いやぁ。女の子がいると場が華やぐねぇ」
「だな。この屋敷は他所と比べてむさ苦しかったもんな」
「それに料理上手ときたもんだ」

「いえいえ。私の様な小娘をそんな風に言って貰えるなんて、こちらこそ嬉しいです」

 颯懍の家に来てから3ヶ月。こちらの生活にも徐々になれてきて、朝餉の片付けを使用人の人達と一緒にしている。

 使用人と言うのはただの人で、仙人でも無ければ道士ですらない。
 俗世でどうしても行き場がなかったり捨てられた人を、時々桃源郷に連れてきて住まわせるのだと言う。

 仕事を与え住む場所を与え、心安らかに最期を迎えてもらい困った人を救済する。善行の一つ。

 仕事は多岐に渡り、農作業や機織り、大工仕事や物作りなど、俗世のそれとほとんど変わらない。ただ少しだけ変わっているのが、ほとんどお金を使わないという事。なんなら無一文でも生きていける。

 俗世ではお金でのやり取りが基本的なのに対して、こちらでは物々交換であったり技術を提供する事でお金の代わりとしている事が圧倒的に多いと言うところだ。


 お金が絡むと、大体ろくな事ないもんね。


 とは言えこれが成り立つのは桃源郷が常に天候に恵まれているのと、仙人界が『善』を基本とする特殊な場所だからに他ならない。俗世でやろうとしても無理な話しだ。

 桃源郷へと連れてこられると子供の出来なくなるので、家族を養うと言う義務がない。だから自分一人の身さえ立てられればそれでいいし、基本的に連れて来てくれた仙が面倒を見てくれる。

 桃源郷へ連れて来られた人は二度と俗世へ戻る事は許されないけれど、使用人の皆んなは口を揃えて「絶対に帰りたくない」と言っていた。
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