仙女の花嫁修行
「いらっしゃいませ〜。御二人で御座いましょうか」

「はい。こう言った店は初めてですので、是非慣れた方をお願いしたいのですが」

「左様でございますか」

 出てきたのは少々お年を召した、上品なおば様。このお店を取り仕切っているのだろう。品定めする様な下品な視線なんて感じなかったけれど、一瞬で評定し終えてしまったらしい。
 さぁさぁどうぞ、と中へと通された。

 案内された部屋へと入り座って待っていると、直ぐに酒とつまみを持った見習いの少女が入ってきて、卓の上へと並べてくれる。

 チラリと颯懍の方を伺うと相当に緊張しているらしく、ソワソワと足を組みかえたり、トントンとテーブルを指で叩いて気を紛らわせていた。

「師匠、大丈夫ですよ。私が付いていますから」

「何が『大丈夫』なんだ。全然頼りにならぬわ! 大体な、こんな店に連れてきて……」

「失礼します」

 颯懍がグチグチと文句を言い始めた所で、扉の向こう側から女性の声が掛かった。
 スルスルとした足取りで入って来たのは、淡い黄褐色の髪の色が印象的な女性。
 こちらを見た瞬間にその女性は、ややつり上がった目をパッチリと見開いた。


「え゛っ、颯懍?!」
「げっ、紅花(ホンファ)


 んんんっ?!
 颯懍は遊女の女性を紅花を呼び、座ったまま後ずさった。

「え? もしかして、お知り合いですか」

「かっ、帰る!!」

 逃げるようにして扉へと向かった颯懍を、紅花は逃さなかった。手首をがっちりと掴んで部屋の奥へと押し戻し、押し倒す位の勢いで強引に座らせてしまった。
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