仙女の花嫁修行
「こちらのお客は私一人で十分。お前たちは戻っていいよ」
 
「ですがお客様は2人いらっしゃいますよ」

「あたしが良いと言ったら良いんだよ。もう一人必要なようならまた呼ぶから」

「……分かりました。ごゆっくり」

 他にいた遊女や見習い達を追い返して、外に誰も居なくなったことを確認すると、紅花はにゃあと紅を引いた口元を歪ませた。

「まさか颯懍様ともあろう御方が、こんな所へいらっしゃるとはねぇ。女が嫌いで仙女を抱かないのかと思っていたのに」

 颯懍の事をよく知っているような口ぶりだ。これは師匠の名誉を守らねば! と私は慌てて口を開いた。

「師匠とどの様なご関係かは存じ上げませんが、誤解です。僕が遊郭へ来てみたいと頼んだのです」

「師匠? ふぅん、あんた颯懍の新しい弟子か」

「はい、道士で泰然(タイラン)と言います。紅花さんは師匠とどの様なご関係で?」

 名前は弟のを借りてしまった。不信そうな顔で覗き込んでくる紅花。女ってバレてないよね?

「ねえ、あんた。あたしが何か気付いてないの?」

「? と言いますと??」

「颯懍聞いた? あたしももうすっかり人間の仲間入りだ」

「こやつが疎すぎるだけだ。調子に乗るな」

 キャッキャっと喜んでいる紅花を、颯懍が窘めている。

 分からない。

 会話の内容に全然ついていけないと首を傾げていたら、颯懍にペちんとおでこを弾かれた。

「まだ分からぬか。こやつは狐の妖だ」

「うぇぇ? す、凄い! 本物の人間かと思った」

 素直に驚くと、さらに紅花は喜んでいる。
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