仙女の花嫁修行
 今更だけど、逃げる……?

 燭台を手に持ち辺りを見回しても、ほんの数尺先が見えるだけで真っ暗だ。これじゃあ泳いで脱出しようにも、前か後ろかどころか、天地すら分からない中で泳ぐ様なもの。

 なにより、私がここから居なくなった事がバレたら、困るのは村のみんなだ。

 龍神様が怒って余計に生け贄を求めるかもしれないし、そうなったら友達を何人も失う事になる。
 
「しっかりしろ、明明。余計な事考えるな」

 こうなるといっその事、早く殺して頂きたい。

 龍神様ってどうやって生け贄を食べるのかな。足の先からちょっとずつとかだったら最悪だ。それならひと思いにパクッとひと飲みにして欲しいなぁ。生は嫌だから焼いて食べるとか?
 まさか嫁だからって辱めるような真似をしてからとか、流石にないよね?


 グルグルと頭を駆け巡る嫌な想像に、はああぁぁ。と大きく息をつくと、洞窟のずっと奥からため息応えるかのように「ゴオオオオオオッ」と凄まじい音が返ってきた。

「ひゃああっ!」

 まるで空気が震えるかのような音にびっくりして、燭台を蹴っ飛ばしてしまった。頼りの灯りは無情にも消え、1寸先すら見えない。

「やだ……どうしよう……。って、どうしようも無いんだけど」

 一人ツッコミを入れている間にも、謎の轟音は規則正しく鳴っている。

 海鳴り……かな?

 そういう事にしておこう。

 真っ暗闇の中で座り込み手をつくと、水が指に触れた。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ

「嘘でしょ……」

 海面が上がってきてる。
 潮が満ちてきたんだ……!
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