仙女の花嫁修行
「あ、あの。私……」
「あら俊豪。どうしたの」
「可馨様」
畑の向こう側から現れたのは、花の精……じゃなくて、美女だった。
絹糸の様に艶やかな髪の毛が風にゆれ、白い肌に潤んだ瞳が儚げで、うっかりすると女の私でも惚れてしまいそうなほどに愛らしい。声までふわふわとして甘いなんて反則だ。
「この女が畑に入り込んで、薬草を抜き散らかしていたのです」
「痛たたっ!」
更にキツく縄を締め上げられて、胸とお腹にくい込んだ。
「そう手荒な真似をしないの」
可馨と言う仙女の手の動きに合わせて、縄がぱらりと解けた。
「見たところ仙骨持ちのようだけれど、何処のどなたかしら」
「凌雲山洞主、颯懍様の弟子で道士の明明と申します」
拱手をしながらぺこりと頭を下げると、驚いたように可馨が声を上げた。
「まあ、颯懍が女の弟子を取ったという噂は本当だったのね。私は西王母様の弟子で天仙の可馨。こちらは私の弟子で道士の俊豪と言うの」
私に刃を突き付けてきた男の顔を改めて見ると、少しツンとした顔立ちのボンボンっぽそうな青年だった。腕組みをして神経を張りつめていることから、まだ私への警戒を解いていない。
「師匠と御知り合いの方で御座いましたか。考え事をしながら薬草採取をしていたら、畑と気付かずに入り込んでいました。改めてお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」