仙女の花嫁修行


「あ、あの。私……」

「あら俊豪(チンハオ)。どうしたの」

可馨(クゥシン)様」

 畑の向こう側から現れたのは、花の精……じゃなくて、美女だった。
 絹糸の様に艶やかな髪の毛が風にゆれ、白い肌に潤んだ瞳が儚げで、うっかりすると女の私でも惚れてしまいそうなほどに愛らしい。声までふわふわとして甘いなんて反則だ。

「この女が畑に入り込んで、薬草を抜き散らかしていたのです」

「痛たたっ!」

 更にキツく縄を締め上げられて、胸とお腹にくい込んだ。

「そう手荒な真似をしないの」

 可馨と言う仙女の手の動きに合わせて、縄がぱらりと解けた。

「見たところ仙骨持ちのようだけれど、何処のどなたかしら」

「凌雲山洞主、颯懍様の弟子で道士の明明と申します」

 拱手をしながらぺこりと頭を下げると、驚いたように可馨が声を上げた。

「まあ、颯懍が女の弟子を取ったという噂は本当だったのね。私は西王母様の弟子で天仙の可馨。こちらは私の弟子で道士の俊豪と言うの」
 
 私に刃を突き付けてきた男の顔を改めて見ると、少しツンとした顔立ちのボンボンっぽそうな青年だった。腕組みをして神経を張りつめていることから、まだ私への警戒を解いていない。

「師匠と御知り合いの方で御座いましたか。考え事をしながら薬草採取をしていたら、畑と気付かずに入り込んでいました。改めてお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
< 52 / 126 >

この作品をシェア

pagetop