仙女の花嫁修行
「うん? ああ、聞いてる。事の詳細は分かった。夕餉の準備を手伝いに行ってこい」

「……はい、分かりました。それでは失礼します」

 颯懔はむっつりとした顔で、木簡の文字を眺めている。

 私の阿呆!
 叱られるような事をしでかしておいて、綺麗だとか何だとか浮かれて喋っちゃったよ。反省している人の態度じゃなかったよね。
 余計に怒らせてしまったかもしれない。

 これはしっかりと可馨様の所で働いてきて、心を改めないと! と心に決めて、夕餉の支度へと向かっていった。


***


「何でよりによって、可馨なんだ」

 洗練され、流れるように書かれたその文字を久しぶりに見て、胸が締め付けられるようにぎゅうっと縮んだ。

 彼女とはもう、四百年と会っていない。

 それなのに今でもあの顔も、仕草も、声音も、全てを鮮明に思い出せる。

 大抵の出来事は時の流れが解決すると信じていたのに。

「参ったな」

 弟子が不始末を起こしたら、師匠の俺がひと言詫びをしに行くべきだ。
 頭では分かっていても気は進まない。

 長い溜息をついた後、墨と筆を取り出して返信を書くことにした。

 久しぶり、だなんて話しは要らないだろう。
 丁寧にお詫びの言葉と弟子を頼むとだけ書き綴って、筆を置いた。
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