仙女の花嫁修行
「んあ゛ぁ?! 誰だ? ……ああ、颯懍(ソンリェン)か」

「颯懍か、じゃない。お主がぐーすかうたた寝している間に、まーた嫁が送られてきただろうが」

「嫁ぇ?」

 真っ暗で何も見えないけど、声の主の2人はこちらを見ているのだろう。数秒静まり返った後、誰かに叩き起された誰かさんが「ぶわっはっはっはっ」と笑い出した。

「何でワシが人間なんざ喰うと思っておるんだか!ワッハッハ」

「あのぉ、暗くて全く見えないんですけれど、そちらにいらっしゃる御一方はもしかして、龍神様でしょうか」

「むっ、そうか。今見えるようにしてやろう」

 さっきと同じように水面を駆けるような音がしたかと思ったら、すぐ近くに人の気配を感じた。
 驚きでビクンと体を揺らすと、次に瞬きした瞬間には、薄明かりに照らされているかのように辺りが見えるようになっていた。

 奥に見える大きな岩棚の上には、これまた大きな青い蛇?

 違う、龍だ。

 長い身体の背には銀色のたてがみが生え、口元にはヒゲだか触覚だかが2本。そして頭にも鹿のような角が2本。
 昔、おばあちゃんから聞いた事のある龍神様の姿そのものだ。

「どうだ、見えるようになったであろう?」

 龍神様の姿に見とれていて、もう一人の方を忘れていた。
 パッと目線を移して隣にいた人の顔を見ると、20代前半くらいの男性がいる。
 切れ長の目とスっと通った鼻筋。少し長めの横髪からは、金と房飾りで出来た耳飾りが覗いていた。

 喋り方からしてもっとお爺さんかと思っていたのに。予想外にも歳若い青年がいて、ポカンと口を開けて見つめてしまった。
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