仙女の花嫁修行
 当時はまだ確か7、8歳。
 そんな男児になぜ女達が迫ってきたのかと言えば、神通力の使い方を極めてくると、身体の年齢すら思うがままに変えられる。
 早々にその術を体得しつつあった俺は、当時の年齢に十歳ほど加えた姿で過ごしていたのがマズかった。

 身体は大人の姿に出来ても、中身はまだまだ子供。

 どうしたら良いものかとオロオロしている内に勝手に女達の間で言い合いがはじまり、「この中の誰と結婚したいか」などと迫られた。
 両腕を双方から引っ張られ挙句の果てに身ぐるみを剥がされそうになったところで、俺を探しに来た兄弟子に救われたのだった。

 この出来事がきっかけで老君は俺を俗世で育てることを決心し、女仙達と一切関わることなく過ごすことになった。


 蟠桃会は俺の、女嫌いを決定的にした出来事と言える。


「愛想良くできない私が参加するのは、西王母様としても宜しくないでしょう」

「いやねぇ。釣れない男ほど女の闘志に火がつくのよ。特に不老の身ともなれば、尚更にね」

 仙となると往々にして暇を持て余しがちになる。

 こうして西王母が無理矢理に俺を参加させようとするのも、ただ面白がっているだけとしか思えない。暇つぶしだ。

「そろそろ老君から受けた恩に報いてやりなさい。気に入る女がいないと言うなら、わたくしが相手をしてあげましょうか?」

「あー、いえ。自分で見つけます故、お気遣いだけで結構です」

「ほほほ。断られたのは初めてよ。女ごころを傷つけた罰として蟠桃会に参加すること。いいわね?」

「分かりました」

 最初から他の返答など用意されていない。

「それから」

 まだあるのかと、顔をしかめそうになった俺とは対照的に、楽しげに西王母は続ける。

「新しい女弟子も準備に貸してちょうだい」

「明明をですか?」

「そう。《《あの子》》が彼女と知り合いだって言うから。入りなさい」

 手を鳴らす合図と共に扉が開く。


「そういう事でしたら、断わる訳にはいきませんね」

 扉の向こうから入ってきた女性を見て、明明を貸すことを了承した。
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