仙女の花嫁修行
「立派な桃園だね。百年に一度しか咲かないんでしょ?」

「ああ。俺も見るのは今度で初めてだ」

「あそこの門も塗り替えしてるんだね……って、あれって」

 門に塗料を塗っている女性。
 淡い黄褐色の髪色が特徴的なあの人は……

紅花(ホンファ)さーん!!」

 大きな声で呼び掛けながら走っていくと、手を止めて振り向いた。

「あ、泰然ちゃん! 久しぶり」

「泰然?」

 俊豪が眉をひそめた。
 そうだった。紅花には男のフリをして会っていたから、弟の名前を名乗ったんだった!

「なんてね。明明ちゃんよね」

「あはは、名前知ってたんですね」

「そっ。颯懔に聞いたから」

「何だよ明明。こいつと知り合いなのか」

「うん。前に会ったことがあるの。俊豪も友達なの?」

「冗談抜かせ。どこに妖狐なんかと友達になる奴がいるんだ……ん? 『も』って言うのは、お前が前に言っていた道士の友達って言うのはこいつの事かよ」

「そうだよ。私が友達だと思ってるだけだけど」

「やーん、明明ちゃんったら。あたしだって友達だって思ってるってばー。秘密を共有する仲だもんね」

 すーりすーりと頬っぺを寄せられた。なんかいい匂いする。

「俊豪は紅花さんとはどういう仲なの?」

「あたしね、今試用期間って言うのかな? この前颯懔に会った後に太上老君に言ってくれたみたいでさ。あたしがそろそろ仙籍に入れるんじゃないかって。そしたら西王母が、桃源郷で50年問題を起こさず暮らせたら仙籍に入れてやるって言うのよ。酷くない?」

「あったり前だ。妖なんて何しでかすか分からない奴を、そう簡単に仙籍になんか入れるわけないだろ」

「うわぁ、怖い。力だけあって善行が足りないやつに言われたくないね」

 小馬鹿にした笑いを浮かべて見てくる紅花に、俊豪が剣を錬成して刃先を向けた。
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