仙女の花嫁修行
「私もその時、璃茉と一緒におりましたが、確かに緑で塗るようにと指示を出しておりました。この女の聞き間違いでしょう。それとも……狐では紅と緑の違いもよく分からないのではないでしょうか? 犬は色の見分けがつかないと聞いた事がありますもの。狐も似たようなものでしょう」
クスクスと笑い合う仙女達に、紅花はただ唇を噛み締めていた。
「至急、塗り直し致します」
「そうして頂戴。西王母様がご覧になられたら大変よ」
立ち去ろうとするので頭を下げて見送ろうとすると、カシャンっと何かにぶつかる音がした。
音の方を見ると門の床に置かれた塗料入れが倒れて、紅色の塗料がこぼれていた。意に介することなく歩いて行く3人。
気付かないのかな。
「あの! 倒れましたよ」
ピタリと立ち止まった杏が、明らかに気分を害したような顔をして振り向いた。
「だから、何?」
「何って……」
わざとじゃなくても、普通、倒してこぼしちゃったら一言あってもいいんじゃないだろうか。そんなことに目上も目下もないと思うんだけど。
「綺麗にふき取っておきなさい。シミ一つ残さずにね。いちいち指示を出さなければ出来ないの?」
「そういう事じゃなくて……ふがっ」
間違いを訂正しようとしただけなのに、俊豪に口を塞がれて喋れなくなってしまった。おまけに無理やり頭を押さえ付けられて腰が曲がる。
「申し訳ありません。こいつは他所から手伝いに来た道士でして。お許し下さい」
「物分りがいいのは俊豪だけね。皆さん、行きましょう」
踵を返して、3人は行ってしまった。
紅花は塗料入れを置き直して、布切れでこぼれた塗料を拭き始めた。紅花の細くてしなやかな手まで紅色に染っていくのを見ると、無性に腹が立ってくる。
クスクスと笑い合う仙女達に、紅花はただ唇を噛み締めていた。
「至急、塗り直し致します」
「そうして頂戴。西王母様がご覧になられたら大変よ」
立ち去ろうとするので頭を下げて見送ろうとすると、カシャンっと何かにぶつかる音がした。
音の方を見ると門の床に置かれた塗料入れが倒れて、紅色の塗料がこぼれていた。意に介することなく歩いて行く3人。
気付かないのかな。
「あの! 倒れましたよ」
ピタリと立ち止まった杏が、明らかに気分を害したような顔をして振り向いた。
「だから、何?」
「何って……」
わざとじゃなくても、普通、倒してこぼしちゃったら一言あってもいいんじゃないだろうか。そんなことに目上も目下もないと思うんだけど。
「綺麗にふき取っておきなさい。シミ一つ残さずにね。いちいち指示を出さなければ出来ないの?」
「そういう事じゃなくて……ふがっ」
間違いを訂正しようとしただけなのに、俊豪に口を塞がれて喋れなくなってしまった。おまけに無理やり頭を押さえ付けられて腰が曲がる。
「申し訳ありません。こいつは他所から手伝いに来た道士でして。お許し下さい」
「物分りがいいのは俊豪だけね。皆さん、行きましょう」
踵を返して、3人は行ってしまった。
紅花は塗料入れを置き直して、布切れでこぼれた塗料を拭き始めた。紅花の細くてしなやかな手まで紅色に染っていくのを見ると、無性に腹が立ってくる。