仙女の花嫁修行
 突然の出来事に息をすることも忘れ、瞬きする事も忘れ、なんなら心臓すら止まったかもしれない。


 私、突然死する。

 死因は接吻で。


 ようやく離してもらって、プハッと空気を吸い込んだ。

「ななななにするんですか!!」

「精気を吹き込んだ。知らぬのか。房中術程でなくとも、接吻で多少は精気を交換出来る。まあお主より俺の方が精気の量が遥かに多いから、この場合は交換ではなくほとんど渡しただけだが」

「明明ちゃん、ずっと暗視の術を使っていたでしょ? あれ陽の気を消耗するからすっからかんになっちゃったのよ、きっと。それに加えての過労だもの。倒れるのも無理ないわ」

 暗視の術は五臓で言うと「肝」に分類される。「肝」に対応するのは「木」。陽の気を多く消費する術だ。

 って、そんな事どうでもいい!!

「だからって、みんなの前でくくく口付けしなくたって……」

「みんなと言っても、紅花とそこの男だけであろう」

 何そのニンマリ顔は! ついこの間まで女にビビってたくせに!!

 涙目になって睨み付ける私の顔に、颯懔が手をかざした。途端に視界がハッキリとしてよく見える。

 颯懔の暗視の術だ。

 私が自分でかける時よりもずっとよく見える事からして、術の精度と完成度の高さを見せ付けられた気分になる。

「さて、復活した所でやるか。この門の塗装を剥がせば良いのだな?」

「あら、颯懔も手伝ってくれるの?」

 腕まくりをしながらやる気を出している。塗装作業なんて遷人にやらせて良いものかどうか、とは思うけど、手が多いに越したことはない。

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