仙女の花嫁修行
「早く弟子を帰してもらわないと俺が困る。練習が一向に捗らんからな」

「練習? なんのぉ?」

「うわあぁぁー! わわわ私の、せっ、仙術の!!」


 もうやめてー!

 今日の颯懔はおかしい!!

「さっ、早くやりましょう! ね!?」

「そんな物はいらぬ」

 篦を渡そうとしたが、受け取らないで柱に手を当てはじめた。
 何をする気なのか分からないけど、意識を集中させていることは分かる。

 固唾を飲んで見守ること暫し。

 柱から塗料の薄っぺらい塊がパラパラと浮き上がり、水と一緒に地面へと流れ落ちた。
 綺麗に塗料が引き剥がされた柱は、元の木の色を取り戻している。

「これ……一体どうやったんですか」

「んん? 木と塗料の間に水を発生させて剥がし落とした」

「んなっ……!」


 信じられない。

 
 その信じられないことを、あっさりやってのけてしまうのがこの人だ。天才と言われるのも納得できる。

「こんなことなら最初から全部、師匠が塗り替えしてくれれば良かったのに。まさか塗る作業の方も術で出来たりするんですか?」

「塗料の成分と配合割合が分かれば出来なくもないが、そこまでしたら俺がやったってバレる。西王母様がいい顔しないだろうからな」

「じゃあ一緒に塗りましょ!」

 紅花に刷毛を手渡された颯懔がペタペタと塗料を塗り始めた。それを俊豪が思い詰めたような顔をしてじっと見ている。

「俊豪? どうしたの。大丈夫?」

「あんたの師匠って……いや、何でもない」

 重たい空気を吐き出すと、俊豪も作業へと戻って行った。
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