仙女の花嫁修行
 村の人達の呼びかけに大声で応えると、誰もがその場でピタリと固まった。

「え……? 明明、なんでお前ここに??」
「確かに洞窟に送り届けて来たって聞いたのに、こりゃあ一体どうなってんだ?」
「花嫁が逃げ出したなんて龍神様にバレてしもうたら、どうなるんだ……?!」

 見る見るうちに青ざめていく村人達を前に、颯懍が進み出てきた。

「俺は崑崙(こんろん)山洞主・太上老君(たいじょうろうくん)様の弟子で、凌雲山洞主・仙人の颯懍と言う。龍神の事ならば心配は無用。良ければ此度の委細を話して聞かせよう」


 やっぱり仙人だったんだ!

 仙術と言っていたからそうじゃないかと思っていたけど、本物の仙人って初めて見た。それに太上老君って、聞いた事のある仙人様の名前だ。きっと凄い人のお弟子さんなんだ、この人は。

 

 集会所に村人を呼び集め、私が家族と感動の再会を果たすと、颯懍が龍神様についてざっと説明してくれた。
 神は人を食べない事、花嫁を必要としていない事、眠っている間は雨が降らない事……。
 
「それでは、龍神様に生け贄は意味が無いと言う事でしょうか?」

 村の長老のお婆さんが信じられない、と声を震わせながら訊ねた。

「そうだ。あやつは時々眠り過ぎて、それで雨が降らなくなる事がある。ひと月以上全く雨が降らなかったら、洞窟の中のあの小岩の辺りでこの鈴を鳴らしてみるといい」

 長老が手のひら程ある大きめの鈴を受け取ると、シャランと重みのある音がした。この音、洞窟の中で聞いた鈴の音だ。

「深い眠りからも目覚めさせるよう、術を仕込んでおいた」

「無理に目覚めさせたら、龍神様は御怒りになるのでは?」

「鈴を鳴らす時には一緒に、美味い酒でも置いとくといい。人間の女に興味は無いが、酒は好物だからな。くれぐれも多用せぬように。ひと月以上降らなかったら、だ」

「かしこまりました。ありがとう御座います、仙人様」
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