輝く樹木

第１章 第１話

　見渡す限り田園が続く中を一本の道が通っている。普通車２台がやっとすれ違えるほどの幅の道である。純白の太陽の光を浴びた稲は、鮮やかな緑の光を反射させている。最近修繕されたばかりのアスファルトは、純白の太陽の光とともに緑の光を反射させている。中学２年の藤村輝夫はステーションワゴンの後部座席に座って、緑の眩しいばかりの田園風景をうっとりとした様子で眺めている。輝夫の父真樹夫は、最近買い替えたばかりのステーションワゴンのハンドルを左手で握り、右手は軽くなぞりながら運転している。助手席に座っている萌子は、開いたガイドブックを両手に持ちフロントガラスを通して前方を見つめていた。やがて彼等の目に、田園風景とは対象的な家並みの光景が飛び込んできた。輝夫が住んでいた街では考えられないことであったが、家と家との間の距離が驚くほど離れていた。そしてそれらの家々は輝夫が思い描いていた古民家のようなものではなく、モダンな建物がほとんどであることに輝夫は驚いた。
　遥か前方へ続いている道は左側から緑の光を放っていた。道を進むに連れてその緑の光は大きくなっていった。緑の光を支えるように茶色の光が輝いていた。やがて緑とそれを下から支えている茶色の光が、道路左側の視界をすべて遮ってしまった。緑の光はところどころで微妙に違う緑の輝きを放っていた。それを支える茶色の光も微妙に違う光を放っていた。
　彼等を出迎えていた森林はやがて大きく口を開いて森林の内奥へと誘って行った。真樹夫はハンドルを左にきって森林の中の暗闇の中へと車を進ませて行った。森林の中を進む内に真樹夫と萌子と輝夫の目は、少しずつ森林の暗闇に慣れてきた。森林の暗闇に慣れてきた目は上空の隙間から差し込んでくる純白の光の眩しさに目を細めた。白い純白の線は暗闇の中で炸裂して四方八方に広がり、純白の粒となって一面に飛び散った。木々の葉が星の数ほどの白い粒を緑色の光に変えて反射させていた。木々の葉は、それぞれ独自の緑色の光を放っていた。ある葉は濃い緑色を、ある葉は薄い緑色を、ある葉は青色に近い緑色を放っていた。
　様々な緑色の輝きは、突然前方から差し込んできた純白の光によって一瞬の内に消えてしまった。森林は大きく口を開いて、外の世界から純白の光を飲み込み始めた。やがて純白の光は無数の色の光となって輝いていた。緑の平原が広がっていた。前方に見える道は真っすぐ伸びて一本の線になっていた。真樹夫はその一本の線に向けて車を走らせ続けた。
　平原の中を通る道の先で、右側に焦げ茶色の光が輝いていた。車が進むにつれて、その焦げ茶色の光は大きくなっていった。茶色の光は幾何学模様の形を帯びて輝き始めた。やがて茶色の輝きが消えると同時に焦げ茶色の建物がその姿を現し始めた。