輝く樹木

第1章 第22話

「今日の授業はどうだった?」
「今、国語の授業で武者小路実篤の『友情』を読ませているんだけど、この小説って男性二人の友情が同じ女性に対する恋愛によって壊れてしまう話でしょう。親子で恋愛の話を話し合うなんて照れくさかったわ。やはり親が教師をするというのは難しいんだなと思ったわ」
「そういうことがあるから西洋では学校ができて、日本でも始まりは私塾というものができたんだろうね」
「私達が始めたことはよかったんでしょうか? 今、各地でNPOで始めているフリー・スクールが増えているでしょう。そこに任せればよかったのかしら」
「でもそのことも話し合ったことだよね。まったく別の環境に置くことがまず何よりも優先してやらなくてはならないことだと。フリー・スクールがあるところはどうしても市街地になってしまうから、自分たちが考えているような環境の変化を設定することは、とても無理だということを確認したんだけど」
「それはわかっているわ。また蒸し返してごめんなさい。私以前職業として教師をしていたから、こういう状況というのが却って戸惑ってしまって」
「何か分かるような気がするよ。僕みたいに全く教育現場の経験がないものの方が、却ってやりやすいのかも知れない」
「現場で教えていたときよりはずっと楽だわ。1対40じゃなくて1対1だから。ただ、親子ってことをほとんど念頭に置かなかった、という私の考えの甘さでした。ごめんなさいもうだいじょうぶよ」
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