輝く樹木

第1章 第34話

「あなた、テレワークの仕事は順調に進んでいるの?」
「今のところ問題なく進んでいるよ。本当に通勤というのがないのは楽だね。あの通勤地獄のことを思い出すと今が天国だよ」
「それに午後は輝夫の理科と数学の授業の担当をしてもらえるし」
「でもこれは君が仕事を辞めて家事育児を一手に引き受けてくれたお陰だよ。それで僕は仕事にだけ専念できたんだ。あれだけ仕事に専念できたから今こうしてテレワークの仕事が出来る下地を作ることが出来たと思うよ。そのことでは本当に君に感謝しているよ」
「でも私は仕事を続けていく自信がなくなりかけていて、育休が終了する機会に辞めることが出来たことは、今考えても本当に良かったと思っているわ」
「でも子育てに関しては君に殆どを任せてしまったことは、本当にすまなかったと思っているし後悔している。特に中学になってからは大変だよな。あんないじめがあるなんて」
「そう、あれは毎年恒例のバスで行く写生会の時のことよね。特に親しい友達がいなかった輝夫は、一人で周りに誰もいないところで写生をしていたら、例の悪グループが一人でいるところを偶然に見かけて、輝夫のことを取り囲んで散々陰湿ないじめの行為をしたんだわ。そのグループのリーダーは成績が優秀な子だけど、いじめる時自分では直接手をくださないの。そのリーダーは入学当初から輝夫に対して密かに対抗意識のようなものを持っていたらしいの。でも、輝夫はその日私に全部話してくれたわ。そして学校には絶対に話さないでと言ったの。そのリーダーが主犯として上がることは絶対ないと輝夫は確信していたのね。そして自分から言ったの。もう明日から学校へ行かないと。私は輝夫の決断を受け入れて褒めてやったわ」
「君が輝夫のことでそんなに大変な状況にあったのに、僕は毎日深夜帰りで全く相談にのってあげられなくて本当に済まなかったね。ごめんね。君は僕の仕事が上手く行くように君だけで処理してくれたんだね。ありがとう」
「それはあなたがいつも私の決断を全面的に認めてくれていたからよ。あなたが理解してくれているという安心のもとで、輝夫の中学生活が始まったことはわたしにとっても良かったことだと思っているわ」
「そうだね。僕らは輝夫が最終的に自分の命を第一に考えられるようにということを前提に、今回の決断に踏み切ったわけだからね」
「本当はあなたに相談してから輝夫に対して答えれば良かったのにごめんなさいね」
「いや、君が輝夫に対して言った答えは本質的に僕の考えと同じだったわけだから、気にしなくていいんだよ。でもこのことがきっかけで、こんなに広いところでのびのびと生活できて今精神的に本当にいい状態に思えるよ」
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