輝く樹木

第1章 第36話

 リビングルームでテーブルを挟んでテレビの反対側のソファーに輝夫は座っていた。テーブルにはスケッチブックが真っ白なページのところで開いた状態で置かれていた。スケッチブックの右側には色鉛筆の入ったケースが置かれてあった。テレビの画面にはノーベル賞授賞式の後で、記念写真撮影のため並んでいる3人の、日本人受賞者の映像が映っていた。輝夫はノーベル賞授賞式関連のニュースが放送されている間、ずっとテレビの画面を見ていた。

「今回の日本人のノーベル物理学賞はわかりやすいわ。LEDのことでしょう。我が家も半分以上はLED電気に変えたかしらね。買った時は高かったけれど電気代が安くなって助かるわ」
「そうLEDはLED電気の恩恵に与っているから、そういう意味で分かりやすい技術だよね。LEDつまり発光ダイオードは1962年に発明されているんだ。でもその当時は赤色のみだったんだ。1972年に黄緑色のLEDが発明されたけど、実用化のためには青色LEDが必要であった。それを日本人研究者が発明したのだからすごいね」

 輝夫の脳裏には、ノーベル賞授賞式の後の記念写真撮影の模様の映像が映っていた。輝夫の脳裏に映っていた映像が徐々に薄らいで消えていくに従って、テーブルに開かれたスケッチブックの白いページに、脳裏から消えた映像が少しずつ現れてきた。脳裏の映像が消えて、スケッチブックの白いページに鮮やかな映像が映し出された。輝夫は色鉛筆のケースを開けて次から次へと様々な色の色鉛筆を取り出してはもとに戻した。その間色鉛筆を持った輝夫の右手がスケッチブックの上で動いた。白いページの映像は少しずつ薄らいでいった。代わりに輝夫の色鉛筆が織りなす鮮やかな絵が、少しずつ姿を現していった。もともと白いページにあった映像が完全に姿を消した時、輝夫の色鉛筆の動きから生み出された鮮やかな絵が姿を現した。輝夫は色鉛筆をすべてケースに戻すとケースの蓋をした。輝夫がスケッチブックに描いた絵の中央に青い光の点が現れた。その青い点は少しずつ大きくなりそれと同時にその輝きを増して行った。スケッチブック全体が青い光で溢れた。眩しい青い光が輝夫めがけて押し寄せてきた。心地よい重さを瞼に感じた。暗い闇が体全体を覆った。心地よい暖かさに包まれた。心地よい暗闇に覆われた。体全体に心地よい軽さを感じた。体が少しずつ浮いていくのを感じた。心地よい暗闇の中で時々眩しい青い線が横切っていった。
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