輝く樹木
第1章 第50話
「最初どうなるかと思ったけど、いざやってみるとなかなかいろいろ勉強になっていいものだね。教師という仕事は環境によっては本当に素晴らしい仕事になるんだね」
「わたしもこのような日本の教育システムでなかったら、教師の仕事は続けたいと思っているわ」
「教師は、本来は創造的な仕事だと思うよ。それにとても重要な仕事だよね。教育のあり方によって国のあり方も変わっていくからね」
「今日本の教育はどういう方向に進んでいるのかしら?」
「戦後は文部省と日教組との戦いみたいなものだったよね。政治も与野党伯仲が続いていたからね。それが教員の組合加入率が少なくなって行くにつれて、組合は弱体化されて文部省の行政がしやすくなってきた。文部省が文科省に変わった頃には、教職員組合は風前の灯火になっていた。それでいま日本の教育が向かっているのは、いくつかの力ある団体の意向を文科省が集約したものだと僕は思っているんだ。それは日本的伝統と経済力だと思う」
「つまり勤勉に働く国民を育てて、治安の良い経済力のある国を維持していくということかしら」
「そりゃあ、治安が良くて経済力のある国は誰でも望んでいることだと思うよ。でも今問題になっている不登校・いじめ問題の増加に、教育関係者は手をこまねいているからね。この問題に対して文科省は何をしていると思う」
「現場で働いていたときのことを思うと、いろいろやっているように見せても結局は現場に丸投げだったと思うわ。いったいどうしたらいいんでしょうね」
「僕はね、日本にはグランドデザインというものがないと思うんだ。でも日本でグランドデザインと言っても精々長くても数十年でしょう。でも僕が思っているグランドデザインは桁が違うんだ。短くても100年」
「それでは計画した人はもういなくなってしまうじゃないの」
「そう、だからいいと思うんだ。数十年単位の計画だったら計画した人がまだ健在であることが多いでしょう。そうすると自分の利益・損得・名誉を考えて計画するということがでてくる可能性は否定できないでしょう。でも数百年単位で計画することを考えたら自分の損得は馬鹿らしくなってしまうと思うんだ。そうなると自分の利益・損得・名誉を度外視して、計画できる人が計画するようになると思うんだ。同じ首都でもパリが東京のようなビルだらけの都市にならなかったのは、そのようなグランドデザインがあったからでしょう。日本の教育でグランドデザインの欠如がありありと見えるものの代表的なものは、歴史教育だと思うよ。
輝夫は三本の木の前に立っていた。雲ひとつない青空から降り注ぐ太陽の光を、三本の木は浴びていた。真ん中の木の幹のあたりに、太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。茶色、赤色、黄緑色、紫色の光を反射していた。左側の木の幹のあたりに太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。肌色、ピンク色、緑色、水色の光を反射していた。右側の木の幹のあたりに太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。橙色、黄色、青色、白色の光を反射していた。
輝夫は三本の木に近づいてそれぞれの幹を見た。それぞれの木の幹にある4つの点は小さな穴であった。それぞれの穴から樹液がながれでて途中で固まっていた。12の樹液の塊が太陽の光を浴びて12色の光を反射させていた。12色の光は光の粒となって三本の木の周りを飛び交っていた。12色の光の粒はお互いにぶつかりあって無数の色に変化して、木の周りを飛び交いながら幻想的な模様を織りなしていった。やがて無数の色の光の粒は純白の粒となって、三本の木が浴びている太陽の光に溶け込んでいった。三本の木の幹にあった樹液の塊も穴も跡形もなかった。輝夫の目の前には何の変哲もない三本の木が太陽の光を浴びて立っていた。
「わたしもこのような日本の教育システムでなかったら、教師の仕事は続けたいと思っているわ」
「教師は、本来は創造的な仕事だと思うよ。それにとても重要な仕事だよね。教育のあり方によって国のあり方も変わっていくからね」
「今日本の教育はどういう方向に進んでいるのかしら?」
「戦後は文部省と日教組との戦いみたいなものだったよね。政治も与野党伯仲が続いていたからね。それが教員の組合加入率が少なくなって行くにつれて、組合は弱体化されて文部省の行政がしやすくなってきた。文部省が文科省に変わった頃には、教職員組合は風前の灯火になっていた。それでいま日本の教育が向かっているのは、いくつかの力ある団体の意向を文科省が集約したものだと僕は思っているんだ。それは日本的伝統と経済力だと思う」
「つまり勤勉に働く国民を育てて、治安の良い経済力のある国を維持していくということかしら」
「そりゃあ、治安が良くて経済力のある国は誰でも望んでいることだと思うよ。でも今問題になっている不登校・いじめ問題の増加に、教育関係者は手をこまねいているからね。この問題に対して文科省は何をしていると思う」
「現場で働いていたときのことを思うと、いろいろやっているように見せても結局は現場に丸投げだったと思うわ。いったいどうしたらいいんでしょうね」
「僕はね、日本にはグランドデザインというものがないと思うんだ。でも日本でグランドデザインと言っても精々長くても数十年でしょう。でも僕が思っているグランドデザインは桁が違うんだ。短くても100年」
「それでは計画した人はもういなくなってしまうじゃないの」
「そう、だからいいと思うんだ。数十年単位の計画だったら計画した人がまだ健在であることが多いでしょう。そうすると自分の利益・損得・名誉を考えて計画するということがでてくる可能性は否定できないでしょう。でも数百年単位で計画することを考えたら自分の損得は馬鹿らしくなってしまうと思うんだ。そうなると自分の利益・損得・名誉を度外視して、計画できる人が計画するようになると思うんだ。同じ首都でもパリが東京のようなビルだらけの都市にならなかったのは、そのようなグランドデザインがあったからでしょう。日本の教育でグランドデザインの欠如がありありと見えるものの代表的なものは、歴史教育だと思うよ。
輝夫は三本の木の前に立っていた。雲ひとつない青空から降り注ぐ太陽の光を、三本の木は浴びていた。真ん中の木の幹のあたりに、太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。茶色、赤色、黄緑色、紫色の光を反射していた。左側の木の幹のあたりに太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。肌色、ピンク色、緑色、水色の光を反射していた。右側の木の幹のあたりに太陽の光を反射させる4つの平行に並んだ点があった。橙色、黄色、青色、白色の光を反射していた。
輝夫は三本の木に近づいてそれぞれの幹を見た。それぞれの木の幹にある4つの点は小さな穴であった。それぞれの穴から樹液がながれでて途中で固まっていた。12の樹液の塊が太陽の光を浴びて12色の光を反射させていた。12色の光は光の粒となって三本の木の周りを飛び交っていた。12色の光の粒はお互いにぶつかりあって無数の色に変化して、木の周りを飛び交いながら幻想的な模様を織りなしていった。やがて無数の色の光の粒は純白の粒となって、三本の木が浴びている太陽の光に溶け込んでいった。三本の木の幹にあった樹液の塊も穴も跡形もなかった。輝夫の目の前には何の変哲もない三本の木が太陽の光を浴びて立っていた。