輝く樹木
第2章 第2話
「俊治はやはりお前が言っても考えを変えるつもりはない様子か?」
都議会議員の古澤政は妻の富江に言った。
「あの子は根っから勉強が嫌いなんです。私立の中学で勉強ばかりの中学生活を全く望んでないんですよ」
「俊治が確実に入学できるようにある中学に以前から口利きをしていたんだがなあ。まあその中学はいつも滑り止めの候補になっている中学だけど公立中学に行くことに比べたら遥かに将来性がある。とにかく系列の高校は、俊治の今の校内の順位から考えたらとても合格できないような偏差値なんだからな。入学させるための裏金も充分に用意していたんだがなあ」
「俊治は高校受験をしなければならなくなるのね。あの子が入れるような高校があるのかしら」
「何校かの私立高校に目星をつけておいたよ。今回私立中受験のためのお金は使わなかったし、私立中3年間の授業料も貯金できるし、高校入学のためには可成り使えるお金があるからどうにかなるだろう。とにかく俊治には最終的には国会議員になってもらいたいからな」
俊治は今日も朝から部屋に閉じ籠もってパソコンでゲームをして過ごしていた。いま彼が夢中になっているゲームは『アナザーワールド』というゲームであった。世界中のゲーマーとネットで繋がって遊ぶゲームで、参加者は現実世界とは別の仮想現実の世界の一員となるのであった。この仮想現実の中でゲーマーは、現実世界とは別のもう一つの世界のなかで、別の生活を楽しむことができるのであった。現実世界の中では失敗したものが仮想世界の中で成功する。そのような例がたくさんあるのである。この世界では参加者誰もが同じスタートラインにたって始めることが出来る。現実世界ではそういうわけにはいかない。誰もが同じスタートラインに立っているわけではない。生まれた時点でほぼ人生は決まっているんだ、ということを大人になってから言い出す人間を世の中で多く見かける。実際富裕家庭で生まれた子と、極貧の家庭で生まれた子を秤にかけたとき、誰がみてもその将来は明白である。与えられる食事の違いで健康面で大きく違ってくる。何よりも一番違うのは与えられる教育の違いである。そのため選べる職業の数も遥かに違うものとなってしまう。しかし仮想現実の世界では同じスタートラインで始めること出来る。だがこのゲームも最近は違ったものになりつつある。というのはこの仮想現実の中で使える通貨が現実世界の中で買えるようになったからである。最初はそのような通貨の買い方をするものはほとんどいなかった。しかし最近は増えつつあるのである。俊治はそのようなゲーマーの一人になっていたのである。小6になってから俊治は父親の政に度々お金の無心をするようになった。政は俊治が私立の中学に進むということを条件に、望むだけ俊治にお金を与えた。俊治は仮想現実のゲームに異常に深入りしていき、中学への進学の意志がいつの間にか皆無になってしまった。
都議会議員の古澤政は妻の富江に言った。
「あの子は根っから勉強が嫌いなんです。私立の中学で勉強ばかりの中学生活を全く望んでないんですよ」
「俊治が確実に入学できるようにある中学に以前から口利きをしていたんだがなあ。まあその中学はいつも滑り止めの候補になっている中学だけど公立中学に行くことに比べたら遥かに将来性がある。とにかく系列の高校は、俊治の今の校内の順位から考えたらとても合格できないような偏差値なんだからな。入学させるための裏金も充分に用意していたんだがなあ」
「俊治は高校受験をしなければならなくなるのね。あの子が入れるような高校があるのかしら」
「何校かの私立高校に目星をつけておいたよ。今回私立中受験のためのお金は使わなかったし、私立中3年間の授業料も貯金できるし、高校入学のためには可成り使えるお金があるからどうにかなるだろう。とにかく俊治には最終的には国会議員になってもらいたいからな」
俊治は今日も朝から部屋に閉じ籠もってパソコンでゲームをして過ごしていた。いま彼が夢中になっているゲームは『アナザーワールド』というゲームであった。世界中のゲーマーとネットで繋がって遊ぶゲームで、参加者は現実世界とは別の仮想現実の世界の一員となるのであった。この仮想現実の中でゲーマーは、現実世界とは別のもう一つの世界のなかで、別の生活を楽しむことができるのであった。現実世界の中では失敗したものが仮想世界の中で成功する。そのような例がたくさんあるのである。この世界では参加者誰もが同じスタートラインにたって始めることが出来る。現実世界ではそういうわけにはいかない。誰もが同じスタートラインに立っているわけではない。生まれた時点でほぼ人生は決まっているんだ、ということを大人になってから言い出す人間を世の中で多く見かける。実際富裕家庭で生まれた子と、極貧の家庭で生まれた子を秤にかけたとき、誰がみてもその将来は明白である。与えられる食事の違いで健康面で大きく違ってくる。何よりも一番違うのは与えられる教育の違いである。そのため選べる職業の数も遥かに違うものとなってしまう。しかし仮想現実の世界では同じスタートラインで始めること出来る。だがこのゲームも最近は違ったものになりつつある。というのはこの仮想現実の中で使える通貨が現実世界の中で買えるようになったからである。最初はそのような通貨の買い方をするものはほとんどいなかった。しかし最近は増えつつあるのである。俊治はそのようなゲーマーの一人になっていたのである。小6になってから俊治は父親の政に度々お金の無心をするようになった。政は俊治が私立の中学に進むということを条件に、望むだけ俊治にお金を与えた。俊治は仮想現実のゲームに異常に深入りしていき、中学への進学の意志がいつの間にか皆無になってしまった。