輝く樹木

第2章 第4話

「それじゃ今から病院にいってくるからね。健のことは頼んだよ。次に行くときは守も健も連れて行くからね」
「父さんはどれくらい入院するの?」
「一ヶ月? それくらいは覚悟しているんだ。酷い怪我だったからね」
「健のこと起こしてこようか?」
「いいよ、寝かしておきな。それじゃ行くからね。時間になったら健のことを起こしてよ」
 守の父の寅次郎は主に長距離の運送を担当しているトラックの運転手である。間に休みを取らずに連続で長距離の運転をした帰り道のことである。見渡す限り何も見えないくらいの田園地帯を通る国道を走っていた。寅次郎は連夜の長時間の運転のため突然の睡魔に襲われた。仮眠をとるために脇道に寄せようとした瞬間意識を失った。意識が戻った時寅次郎は横転したトラックの運転席にいた。横転したトラックの運転席から外に出ようとしたが全身激しい痛みを感じて動かすことが出来なかった。やっとのことで携帯を取り出し救急車を呼んだ。

 守はオリエンテーションの時担任の教師から渡された封筒を、寅次郎に渡すつもりでいた。担任の教師は封筒を配る前に中身について説明していたので、封筒の中身について知っていた。教材費の内訳と納入に関する通知書であった。
 家に着くと母の香苗が寅次郎の事故でパニックになっていた。少し間を置いて落ち着いてから香苗は通帳を取り出して必死になって病院費を捻出しようとしていた。中1の守にはことの詳細は知るよしがなかったとしても、状況が深刻であることは感じ取ることができた。守は封筒を香苗に渡すことが出来なかった。
 教材費の内訳と通知書を見ながら小4のときのことを思い出した。寅次郎の勤めていた会社が倒産して、寅次郎と香苗は呆然と黙ったまま茶の間のテーブルの前に座っていた。給食費用の袋を鞄から出そうと、玄関に入りながら鞄をおろそうとした時、家が深刻な状況にあることを感じ取った守はその袋を鞄から出すことが出来なかった。
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