輝く樹木
第2章 第5話
笹川武瑠が学校から家に着いて玄関の扉を開けると、父俊一郎と母沙也加の深刻そうな会話が聞こえてきた。
「やはりどうしても会社を辞めなければならないみたいだな」
「今日はそんなに強いことを言われたの?」
「営業には向いていないんだよ。若い頃に気がつくべきだったんだよ。でも若いうちは自分のことを過信してしまうんだろうな。あれだけ数字で示されたら何も反論できないよ。やはり若者には敵わないな。もっとパソコンを若いうちに勉強しておけばよかったよ」
「でも退職金がでるんでしょう」
「自主退職すればいくらか割増をしてくれるらしい。でもたかが知れてるだろうな」
「あなたの年齢だと再就職大変だわね。わたしもパートを早速探さなくちゃならないわ」
「二人してハローワークに行かなくちゃならないな。今貯金どれくらいあるんだろう?」
「これで全部よ」
「やはり住宅ローンがきついね。たいして残らないんだね」
「これからいろいろ節約していかなくてはならないわ。まず食費からどんどん節約していかなくてはね。外食はもう無理ね」
武瑠は会話が一区切りしたとみて、靴を脱いで玄関からスリッパに履き替えた。
「ただいま」
「おかえり。すぐに夕食にするから着替えたらすぐに降りてきて」
自分の部屋に入ると、武瑠は鞄から封筒を取り出した。封のしていない封筒を開けて文書を取り出した。教材費の内訳と納入の通知文書を見ながら玄関に入った時の両親の会話を思い出した。彼等の会話が耳に入った瞬間、深刻なことを話していることがすぐに感じ取れた。あまりにも深刻な雰囲気だったので中に入っていくことが出来なかった。中1の武瑠が会話のすべてを理解することは不可能であったが、武瑠の家族が危機的な状況に置かれていることは理解できた。玄関に入るなり鞄から封筒をだして両親に渡すつもりでいたが、鞄から封筒を出す気にはとてもなれなかった。
武瑠は自分の部屋に入った時、夕食の時に封筒を両親に渡すつもりでいた。しかし、今封筒に入っていた教材の内訳と納入の通知文書を見ていると、さっきの両親の会話が響いてきた。両親の会話の中で武瑠の耳慣れた単語がいくつか記憶にはっきりと残っていた。頭の中でその単語が自ずとつなぎ合わされて武瑠の記憶の中で再構成された。武瑠の頭の中でその深刻さ危機的状況が、現実味を帯びて迫ってくるのを感じた。教材の内訳と納入の通知文書をもとの折り目に合わせてたたみ、封筒の中に戻した。封筒を鞄に戻すと部屋から出て食卓へと向かっていった。
両親と妹の歩海が食卓についていた。両親が深刻な表情を隠そうとしているのが分かった。いつもより元気そうに見せようとして二人共作り笑いをしていることが分かった。食卓に封筒を持ってこなかったが、食事の途中で封筒のことを話そうと最初考えていたが、武瑠には両親の苦闘の様子が手にとるように分かった。食事の時話題にするのをやめようとテーブルについた時に決心した。
夕食が終わってから、武瑠は明日からのことを考えていた。明日は封筒を鞄に入れたまま学校に行こう。でも文書には期限が書いてある。期限の前日になったらどうしよう。期限がすぎたら間違いなく学校から連絡がくるだろう。武瑠は今日はもうこのことを考えるのはよそうと考えた。武瑠は寝床からじっと鞄を見つめていた。そして少しずつ目から涙が流れているのを感じた。声を出して泣きそうになった。泣き声が出るのを堪えるのがつらく布団を頭にかぶった。布団を頭にかぶって泣きたいだけ泣いた。どれほど泣いたのか記憶がないほど武瑠は泣いた。武瑠は涙が枯れるのを感じた。そして深い眠りにいつの間陥っていった。鞄が机の上で部屋のスモールライトの光を反射させて黒光りしていた。その黒い輝きは武瑠のことを嘲笑っているかのような輝きであった。
「やはりどうしても会社を辞めなければならないみたいだな」
「今日はそんなに強いことを言われたの?」
「営業には向いていないんだよ。若い頃に気がつくべきだったんだよ。でも若いうちは自分のことを過信してしまうんだろうな。あれだけ数字で示されたら何も反論できないよ。やはり若者には敵わないな。もっとパソコンを若いうちに勉強しておけばよかったよ」
「でも退職金がでるんでしょう」
「自主退職すればいくらか割増をしてくれるらしい。でもたかが知れてるだろうな」
「あなたの年齢だと再就職大変だわね。わたしもパートを早速探さなくちゃならないわ」
「二人してハローワークに行かなくちゃならないな。今貯金どれくらいあるんだろう?」
「これで全部よ」
「やはり住宅ローンがきついね。たいして残らないんだね」
「これからいろいろ節約していかなくてはならないわ。まず食費からどんどん節約していかなくてはね。外食はもう無理ね」
武瑠は会話が一区切りしたとみて、靴を脱いで玄関からスリッパに履き替えた。
「ただいま」
「おかえり。すぐに夕食にするから着替えたらすぐに降りてきて」
自分の部屋に入ると、武瑠は鞄から封筒を取り出した。封のしていない封筒を開けて文書を取り出した。教材費の内訳と納入の通知文書を見ながら玄関に入った時の両親の会話を思い出した。彼等の会話が耳に入った瞬間、深刻なことを話していることがすぐに感じ取れた。あまりにも深刻な雰囲気だったので中に入っていくことが出来なかった。中1の武瑠が会話のすべてを理解することは不可能であったが、武瑠の家族が危機的な状況に置かれていることは理解できた。玄関に入るなり鞄から封筒をだして両親に渡すつもりでいたが、鞄から封筒を出す気にはとてもなれなかった。
武瑠は自分の部屋に入った時、夕食の時に封筒を両親に渡すつもりでいた。しかし、今封筒に入っていた教材の内訳と納入の通知文書を見ていると、さっきの両親の会話が響いてきた。両親の会話の中で武瑠の耳慣れた単語がいくつか記憶にはっきりと残っていた。頭の中でその単語が自ずとつなぎ合わされて武瑠の記憶の中で再構成された。武瑠の頭の中でその深刻さ危機的状況が、現実味を帯びて迫ってくるのを感じた。教材の内訳と納入の通知文書をもとの折り目に合わせてたたみ、封筒の中に戻した。封筒を鞄に戻すと部屋から出て食卓へと向かっていった。
両親と妹の歩海が食卓についていた。両親が深刻な表情を隠そうとしているのが分かった。いつもより元気そうに見せようとして二人共作り笑いをしていることが分かった。食卓に封筒を持ってこなかったが、食事の途中で封筒のことを話そうと最初考えていたが、武瑠には両親の苦闘の様子が手にとるように分かった。食事の時話題にするのをやめようとテーブルについた時に決心した。
夕食が終わってから、武瑠は明日からのことを考えていた。明日は封筒を鞄に入れたまま学校に行こう。でも文書には期限が書いてある。期限の前日になったらどうしよう。期限がすぎたら間違いなく学校から連絡がくるだろう。武瑠は今日はもうこのことを考えるのはよそうと考えた。武瑠は寝床からじっと鞄を見つめていた。そして少しずつ目から涙が流れているのを感じた。声を出して泣きそうになった。泣き声が出るのを堪えるのがつらく布団を頭にかぶった。布団を頭にかぶって泣きたいだけ泣いた。どれほど泣いたのか記憶がないほど武瑠は泣いた。武瑠は涙が枯れるのを感じた。そして深い眠りにいつの間陥っていった。鞄が机の上で部屋のスモールライトの光を反射させて黒光りしていた。その黒い輝きは武瑠のことを嘲笑っているかのような輝きであった。