輝く樹木
第2章 第6話
秀介はオリエンテーションで実施した成績表をじっと見ていた。封筒から成績表の文書を取り出して開いて見た時、信じられないという思いが頭をよぎった。学年順位160人中2位、クラス順位40人中2位。秀介は当然学年順位が1番だと思っていた。公立中学で自分が断トツで1位だと思っていた。それも2位を可成り引き離しての1位だと思っていた。それが学年2位どころかクラスでも2位である。公立中学で自分より成績のいい生徒がいる。それも同じクラスで。秀介はその生徒がだれであるか知りたかった。担任の教師である宮部勉はクラス全員の前で生徒の順位を言う教師ではなかった。宮部はそのような意志をクラスで伝えてから成績表の入った封筒を配ったので誰が1番であるか聞くものはいなかった。しかし、1番の生徒が誰であるか秀介は知りたかった。
翌朝、秀介はいつもより早めに登校して、教室に鞄を置くとすぐに職員室に向かった。
「失礼します。担任の宮部先生はいらっしゃるでしょうか?」
「おー、斉川か。朝早くからどうしたんだ?」
「あのーオリエンテーションで実施した試験で学年1番の生徒が僕のクラスにいますよね?」
「なぜ、同じクラスにいるって知っているんだ」
「僕の順が学年2位でクラス2位なので」
「そういうことか。学年1番の生徒の名前でも聞きに来たのか」
「ん、まあ・・・」
「でもなぜその生徒の名前が知りたいんだ?」
「僕はその生徒と友だちになって僕の苦手なところを教えてもらいたいんです」
「私はね、学年の方針で生徒のやる気を出させるという目的で上位者を発表する試験の時は別だとおもっているよ。でも今回の試験はよりよい授業を行うための調査のようなものなのだよ。別に順位を問題にするような試験ではないんだよ」
「それではクラス順位と学年順位のある成績表を配ることはなかったんじゃないのですか。他のクラスでは上位5名まで発表していたと他のクラスの友だちから聞きました」
「それじゃ、他のクラスの担任の先生と相談して、出来れば明日の朝のホームルームで発表するよ」
翌朝、朝のショートホームルームの時間担任の宮部は、クラスで試験の上位者5名を発表した。
クラスの一位、もちろん学年の1位でもあったが、その生徒は藤村輝夫であった。オリエンテーションが終わり、授業を一通り全教科受けて、いくらかクラスの雰囲気や生徒の様子が分かってきた時期であった。公立中学でも出来る生徒が何人かはいるのだなと感じた。しかしその何人かには輝夫は入っていなかった。クラスで輝夫が1番であることを知らされるまで彼の存在に気づいていなかった。だが、彼が1位であることを知らされてから彼を無視できないどころか、意識せずにはいられないようになった。オリエンテーションで受けた試験は私立中学受験のために猛勉強した秀介にとって優しい問題であった。ほとんど解答間違いはなかったと確信していた。しかし秀介よりも出来る生徒がいた。
秀介は輝夫に近づこうとはしなかった。友だちになろうとも思わなかった。ただ輝夫のことを毎日観察するようになった。というより観察せずにはいられなくなってしまった。授業中、休み時間さりげなく気づかれないように輝夫のことを観察した。授業中教科の教師から質問をされて答える輝夫は、いつも正しい答えを答えていた。国語の時間に朗読で指名された時漢字を読み間違えることもなかった。だが、輝夫のように授業のなかで答えたり、朗読したり出来る生徒はクラスのなかで何人もいた。輝夫よりも秀でた答えを言ったり朗読をする生徒がいた。ここ数日観察した印象としてはいたって普通の目立たない生徒であった。しかしひとつだけ気がついたことがあった。休み時間輝夫は一人でいることが多い。クラスの生徒と話しをしているところをほとんど見かけたことがないということであった。
帰りのショートホームルームが終わって、昇降口で上履きを靴に履き替えている時、秀介に話しかけてくる声がした。
「古澤俊治です。まだ話したことはないよね」
「男子生徒だけで20人いるからね。皆と言葉を交わすまでにはしばらくかかるだろうね」
「斉川君のお父さんは帝南総合病院の医院長だって聞いたんだけど?」
「誰に聞いたの?」
「母さんが言ってたよ。母さんはクラスの生徒の親の仕事が何か詮索するのが好きみたいで、アンテナが高いんだ」
「それじゃ君のお父さんの仕事は?」
「政治家で都議会議員」
翌朝、秀介はいつもより早めに登校して、教室に鞄を置くとすぐに職員室に向かった。
「失礼します。担任の宮部先生はいらっしゃるでしょうか?」
「おー、斉川か。朝早くからどうしたんだ?」
「あのーオリエンテーションで実施した試験で学年1番の生徒が僕のクラスにいますよね?」
「なぜ、同じクラスにいるって知っているんだ」
「僕の順が学年2位でクラス2位なので」
「そういうことか。学年1番の生徒の名前でも聞きに来たのか」
「ん、まあ・・・」
「でもなぜその生徒の名前が知りたいんだ?」
「僕はその生徒と友だちになって僕の苦手なところを教えてもらいたいんです」
「私はね、学年の方針で生徒のやる気を出させるという目的で上位者を発表する試験の時は別だとおもっているよ。でも今回の試験はよりよい授業を行うための調査のようなものなのだよ。別に順位を問題にするような試験ではないんだよ」
「それではクラス順位と学年順位のある成績表を配ることはなかったんじゃないのですか。他のクラスでは上位5名まで発表していたと他のクラスの友だちから聞きました」
「それじゃ、他のクラスの担任の先生と相談して、出来れば明日の朝のホームルームで発表するよ」
翌朝、朝のショートホームルームの時間担任の宮部は、クラスで試験の上位者5名を発表した。
クラスの一位、もちろん学年の1位でもあったが、その生徒は藤村輝夫であった。オリエンテーションが終わり、授業を一通り全教科受けて、いくらかクラスの雰囲気や生徒の様子が分かってきた時期であった。公立中学でも出来る生徒が何人かはいるのだなと感じた。しかしその何人かには輝夫は入っていなかった。クラスで輝夫が1番であることを知らされるまで彼の存在に気づいていなかった。だが、彼が1位であることを知らされてから彼を無視できないどころか、意識せずにはいられないようになった。オリエンテーションで受けた試験は私立中学受験のために猛勉強した秀介にとって優しい問題であった。ほとんど解答間違いはなかったと確信していた。しかし秀介よりも出来る生徒がいた。
秀介は輝夫に近づこうとはしなかった。友だちになろうとも思わなかった。ただ輝夫のことを毎日観察するようになった。というより観察せずにはいられなくなってしまった。授業中、休み時間さりげなく気づかれないように輝夫のことを観察した。授業中教科の教師から質問をされて答える輝夫は、いつも正しい答えを答えていた。国語の時間に朗読で指名された時漢字を読み間違えることもなかった。だが、輝夫のように授業のなかで答えたり、朗読したり出来る生徒はクラスのなかで何人もいた。輝夫よりも秀でた答えを言ったり朗読をする生徒がいた。ここ数日観察した印象としてはいたって普通の目立たない生徒であった。しかしひとつだけ気がついたことがあった。休み時間輝夫は一人でいることが多い。クラスの生徒と話しをしているところをほとんど見かけたことがないということであった。
帰りのショートホームルームが終わって、昇降口で上履きを靴に履き替えている時、秀介に話しかけてくる声がした。
「古澤俊治です。まだ話したことはないよね」
「男子生徒だけで20人いるからね。皆と言葉を交わすまでにはしばらくかかるだろうね」
「斉川君のお父さんは帝南総合病院の医院長だって聞いたんだけど?」
「誰に聞いたの?」
「母さんが言ってたよ。母さんはクラスの生徒の親の仕事が何か詮索するのが好きみたいで、アンテナが高いんだ」
「それじゃ君のお父さんの仕事は?」
「政治家で都議会議員」